医療AIと製薬業界をつなぐ、新しい共創型ビジネスのかたち
「医療AIですべての人に健康な未来を」。エルピクセル株式会社(以下、エルピクセル)は、医療やライフサイエンス分野を対象とした画像解析AI技術を活用し、高精度なソフトウェアやソリューションを提供している企業である。医療機関向けに画像診断支援AI「EIRL(エイル)」を提供し、利用料を収益源とするビジネスを展開する。また、AIを活用した画像解析技術をもとに、製薬企業や医療関連企業と共同研究をこれらの共同研究を通じて、新たな技術の開発や事業の創出の推進にも取り組んでいる。今回は、共同研究や製薬企業・アカデミア向けのソリューションをリードする事業開発の責任者・加藤祐樹さんにお話を伺った。※AI画像診断支援技術「EIRL」についてお話しいただいた宮川哲さんのインタビューはこちら。
「僕は事業開発の責任者として、いろいろな製薬企業や医療関連企業と関係を深めながら、共同研究事業の研究テーマを探りながらプロジェクトを獲得していく部分を担当しています。プロジェクトを獲得した後は、契約手続きや進捗管理といったコーディネーションも担当しますし、それを事業として拡大していくためにプロジェクトの横展開や戦略立案をしています。」
現在12期目を迎えた会社の成長とともに、組織の体制はより強固になった。事業開発を担当するグループの人数は増加し、業務の忙しさも以前より増しているという。医療機関向けのビジネスは先行投資型で、日本の医療分野におけるデジタル化やAI導入の遅れから元々売上規模は小さかったが、近年のAI技術への関心の高まりや保険制度の整備が進んだことを背景に大きく成長してきた。共同研究事業はサブスクリプション型ではなく、プロジェクトごとに収益が発生するため、新たな案件の獲得が常に求められるという。
「研究には終わりがあるので、また新しい研究や共同研究先を探す必要があります。日本の医療機関向けビジネスにおいて僕らがターゲットとしているのは、大手や準大手の製薬企業です。製薬企業は縦割りの組織で、ひとつの企業の中でも本当にいろんな研究が進んでいるんですよね。実際、ひとつの製薬企業の中でも複数の部門と並行してプロジェクトを進めるとこうこともあります。その一例として、第一三共株式会社(以下、第一三共)との取り組みがあります。第一三共は、今日本の中でも特に成長している製薬企業のひとつですが、2022年7月に包括提携という形でエルピクセルと契約しました。この提携を通じて、いろいろな分野や業務にフォーカスした支援を提供しており、今も複数のプロジェクトが並行して動いている状態です。第一三共とはとても強固な関係を築けているので、そこがひとつの大きな収益の柱になっていると思います。」
「特に、第一三共と提携して分かったのは、製薬企業が僕らの技術を求める場面は幅広いということです。細胞の画像解析だけでなく、それ以外の場面でも技術の活用が進んでいる。こうした経験が僕らの知見となり、他の企業への提案活動にも活きています。元々、エルピクセルは生物系の画像解析を主軸に東大の生物系研究室から立ち上がった会社で、今も技術の柱として変わらないのですが、製薬企業では化合物や不純物の確認など、化学的な画像解析も求められます。第一三共とのプロジェクトを通じて、製薬企業内での画像解析のニーズがさらに広がっていると実感しています。」
一社目では製薬会社で研究職に就いた加藤さん。加藤さんのファーストキャリアは、製薬会社で、腎臓と肺の研究に従事してきた。大学でも医学系の研究を行う学部・学科に所属していたため、研究職に進むのは自然な流れだったという。 その後、医療系のITのエムスリー株式会社(以下、M3)に転職し営業職へ就いたが、エルピクセルに転職するきっかけはなんだったのだろうか。
「製薬会社にいた時は研究職で、新しい研究の方向性を決めるワーキンググループに参画し、共同研究先を探す業務にも携わりました。アカデミアの教授とも面談を組み、共同研究を進める中で、会社の中にこもって研究するよりも、外の人とビジネスをすることが楽しいと感じるようになり、医療分野でそんな仕事をしたいと思い始めたんです。そこから、医療系の仕事でよりビジネス的な視点を活かせる環境を求めて、M3に転職。製薬会社向けのソリューションコンサルタントとして、M3のデータやソリューションを活用し、医薬品マーケティング支援に約2年半携わりました。製薬会社とビジネスをする面白さを学んだものの、マーケティング支援だけでなく、技術ベースでソリューションを生み出す仕事がしたいと考えるようになりました。そんな時、高校サッカー部の先輩がエルピクセルで働いていて、声をかけてもらったのが転職のきっかけです。実はM3に移ったときも、同じサッカー部の同期の紹介で、人との縁が自分のキャリアの転機になっています。」
新卒で入社した製薬会社は典型的な日系企業の文化であった一方、M3はメガベンチャーの環境だったため、カルチャーや意思決定のスピードの差を実感したという。M3では、そういった環境の違いに適応することが求められたが、その経験を経て、今でもスピード感を持った意思決定にスムーズに対応できているそうだ。一方で、研究を通じて外部の人と関わることの面白さと、難しさも実感している。
「外部の人と働くことの大変さはもちろんあって、営業的な側面としては、僕らは数字を取るというミッションがある。これは、製薬会社で研究していた時とは大きく違うところですね。製薬会社の人たちにとっての目標は、新しい薬や研究成果を生み出すことですが、今の仕事では、まず会社として収益を上げることが目標になります。もう一つの違いは、一つのプロジェクトに対して、僕らと相手の会社、それぞれが目指すべきゴールを持っていること。お互いの目標がうまく一致しなければ、プロジェクトは成立しません。うまくかみ合った時の面白さがあるからこそ、僕は今の仕事を続けているんだろうなと思います。とはいえ、目標が一致して実際に動き始めた後にも、契約書の交渉というハードルがあるので、それはそれで苦労する場面です。特に技術系のプロジェクトだと、知的財産の扱いや細かいルールの調整が必要になってくるので、弁護士の先生にもお世話になりながら、交渉を進めていきます。この契約のプロセスには結構時間がかかるんですよね。一緒にやることが決まった後も、そこにかなりの時間を割くことになります。でもやっぱり一番最初にやりましょうと持っていくまでのプロセスが醍醐味ですね。」
Inspired.Labではランニング部に入り、運動を通じて他メンバーとの会話の機会も増えた。仕事面でも業務の幅が広がり、経験の機会も多くなってきたという。そんな加藤さんがこれからやっていきたいこととは?
「意識してるわけではないですが、『これやってみようかな』っていうことを日々見つけるのが楽しくて。ランニング部のいろんな会に参加してみたり、料理なら新しいレシピに挑戦してみたり。でも、最近は全然やったことのないようなことにも挑戦してみたいなとも思っています。仕事でもそうですし、突拍子もない大きな新しいものができたら面白いなと。」
最後に、加藤さんにとってInspired.Labとは?
「職場ではあるけど、良い意味で職から少し離れて一息つけるサードプレイス的な場所だと思います。カフェには美味しいご飯があって、行けば誰かと話せて、カジュアルな会話もできる。運営スタッフチームのみなさんもフランクに話しかけてくれるので、人見知りの僕にすごく優しい空間だなって思います。それがすごく居心地が良いですね。今は、運動に目覚めて機会は減りましたけど、以前は乾杯してから帰ることもよくありましたよ。そういった緩い繋がりを通じて、いつかはInspired.Labの他の企業の方とも一緒にビジネスを作れると嬉しいなと思っています。」
2025.04.28