
新たな価値創造に挑む ー伝統と革新が交差する現場からー
「科学技術で社会に貢献する」。株式会社島津製作所(以下、島津製作所)は、京都に本社を構え、今年で創設150年を迎える歴史ある企業である。理化学機器の製造を出発点に、日本で初めてX線撮影を実施した企業としても知られており、現在は、分析計測機器、医療用画像診断装置、航空機器、産業機器といった幅広い分野で技術の提供を行っている。今回は、経営戦略室で新しい枠組みを作る伊東文彦さんと、分析計測事業部のSolutions COEで新事業開発を進める奥田晃士さんにお話しを伺った。伊東さんはこれまでの成長モデルから脱却し、新規事業やM&A活動を軸に挑戦を続け、奥田さんは海外拠点との連携強化を課題とし、会社全体に良い影響をもたらす取り組みに挑んでいる。それぞれ異なる立場から島津製作所の未来に向けた取り組みを進めるお二人の想いやビジョンとは?
伊東さん:私はこれまで分析計測事業や研究機器を担当してきましたが、2024年10月から経営戦略室に異動し、会社全体を俯瞰して見る立場になりました。私は戦略を立てる際の枠組みを作ることの方が得意なので、具体的な戦略の内容を決めるというよりも、議論がうまく進むよう環境を整えるための立ち回りをしています。今も次期中期計画の議論をしているのですが、議論のファシリテーションはグロービスの吉田先生にお願いしながら、みんなで議論を深めています。
奥田さん:分析計測事業部のSolutions COE(以下、SCOE)は3年前に新たに組織された部門で、主なミッションは、マーケティング活動と自社製品を用いたアプリケーション開発活動です。その中で私の所属するグループは、分析技術を軸とした新事業創出と海外拠点との連携強化で、SCOEの中でもやや特殊な業務を行っています。新事業については、私をはじめ、グループ全員が未経験で、何から始めていいのか全く分からない状態でしたが、2023年10月より、伊東さん主導の「新事業ワークショップ」に参加したことをきっかけに、会社の外に出て学び自部門へフィードバックすることが、私にできる第一歩だと感じ、Inspired.Labを活用させていただいています。
それぞれの個性や経験を活かしながら、島津製作所で活躍するお二人。奥田さんは異動・部門再編を経て、全く未経験の業務に苦戦しながらも、新事業開発で新しい価値を生み出そうと奮闘している。一方、伊東さんは、経営の枠組み作りや新規事業の推進に携わっている。それぞれの仕事への思いや背景から、仕事の面白さについて伺った。
奥田さん:入社後2年弱は製品開発の部門に所属していましたが、当時の部門長から「お客さんの声を直接聞いたこともなく、実際に装置を使用して分析をしたことがない技術者では、より良い製品を作れない」と言われ、分析スキルと顧客との繋がりを得ることができる現在のSCOEの前身の部門に異動しました。異動後、海外販社との会議の中で、ぜひやってみたいと思えた応用システムがありました。当時の部門は製品企画が主業務ではないため、本来であれば開発部門への提案しかできなかったのですが、関係各所への協力依頼の末に、ややイレギュラーな形ではありますが、製品企画から開発・リリースと実現することができました。現在のグループへの配属も、こういった「突破力」を評価していただいたと聞いています。異動や部門再編などを通じて、業務内容は変化してきた中で、現場の声を取り入れながら新しい価値を生み出す大切さや面白さを実感しています。
伊東さん:私は大学で経済学を学び、人事部からスタートしました。そこで、島津製作所がグロービスを活用した経営塾を始めることになり、私は事務局を担当することになりました。経営塾で学んだ論理思考や経営の考え方は非常に刺激的で、新しいことに挑戦したいという気持ちが芽生え、それがきっかけで新規事業に関わるようになったんです。大切にしていることは、シンプルに面白いことをしたい、基本的にはそれだけです。そういう意味で、新規事業はやはり面白い分野だと思います。新規事業は独立したものではなく、会社のさまざまな活動の中に組み込まれているので、全体を把握していることは強みである一方、関わりが中途半端になってしまう部分は難しさもあるんですけれどね。
島津製作所は、アメリカ、中国、ドイツなどに研究開発拠点を持っており、これらの拠点とのより連携することが重要だと奥田さんは語る。現在は情報共有や交流が十分ではないため、今後はネットワーク構築や効率的な情報交換を進める必要があるという。その上で、伊東さんは島津製作所の強みと課題について次のように語ってくれた。
伊東さん:島津製作所の強みは、やはり技術力です。弊社はこれまで最新技術をいち早く日本で商品化する形で成長してきましたが、最近は、日本の製造業全体が停滞し、島津製作所自身もライフサイエンス分野での欧米企業との競争に苦しんでいると感じています。これまでは各事業部が独自に3カ年計画を作っていましたが、それでは全体の強みを活かしきれません。特に、医療機器と分析機器とのシナジーが課題だと感じているので、今後は事業部間の連携を深め、全体のシナジーを最大化し、遅れを取り戻してトップランナーになっていく必要があります。
欧米の大手と競うには、特定の市場にリソースを集中させる戦略が求められる。特に、ライフサイエンス分野への注力は今後も継続すべきだと二人の意見は一致している。仕事の面白さや、それぞれの立場から見据える島津製作所の未来の姿とはどのようなものなのだろう。
奥田さん:SCOEで働く人たちの意識が変わりつつあり、新規事業や技術の提案が徐々に活発化しています。このポジティブな流れをさらに加速させ、部門全体をより良い方向へ導きたいという思いが強いです。SCOEは事業部の中でも人数が多い部門なので、自部門でポジティブな変化を起こすことができれば、会社全体へ良い影響が広がるのではないかと信じています。また、現在始まっている新しい事業アイデアを募集する社内活動をさらに盛り上げるため、自分も積極的に動きたいと思っています。最終的には、新事業開発と海外連携をもっと密接にリンクさせ、海外拠点から得られる最新の技術や情報を活用し、島津製作所として、社会に対するサービス・技術の提供を効率的に進めていきたいですね。
伊東さん:私は、新規事業を中心に、事業横断的なプロジェクトやM&A活動にも積極的に取り組んでいます。新しいことに挑戦するのは本当に面白いですし、そこに関われることが嬉しいんです。たとえば、M&A活動ではアメリカの企業を買収したり、海外に行く経験もありました。これからは、さらに多くの人が活躍できる環境を作っていきたいと考えています。また、50歳を超えたので、仕事と私生活のバランスを大切にしながら、より充実した日々を送りたいと思っています(笑)。
最後に、お二人にとってInspired.Labとは?
伊東さん:「同窓会」のような場所。Inspired.Labに来て、こんなに面白い世界があるんだと思いました。新規事業を手がける他の会社の方々やOBのみなさんと気軽に交流ができ、相談に乗ってくださるので、心強い知り合いがいるような感覚です。さまざまな方々にお会いする中で、色々と助けてもらっていて、仕事だけではない新しい世界も見せてもらいました。関西にもLabの拠点を作ってくれないかなとずっと思っています。
奥田さん:モチベーションをアップさせてくれる場所です。ここに来ると、さまざまな人と話す中で「もっと頑張らな」と思います。元々、人と話すことがそんなに好きではなかったのですが、Inspired.Labに来てからは多くの人と意見交換することが楽しく、自分の中での良い変化や成長があるんです。それをこれからも継続していきたいと思います。
2025.01.28