「未知の可能性を信じ、あえて(明確な)ゴールは定めない。」

エルピクセル株式会社はライフサイエンス領域の画像解析に強みを持ち、医療・製薬・農業の各分野においてAI技術を応用した高精度のソフトウェアを開発している。AI画像診断支援技術「EIRL(エイル)」は独自のアルゴリズムによりCT、MRI、胸部X線などの医療画像情報を解析し、効率的で正確な診断が出来る環境の提供を目指している。Inspired.Labメンバーの大瀧翔子さんは、エルピクセルで広報全般の仕事を務めている。

「広報の仕事の一つは、医療画像診断支援技術「EIRL」や創薬を支援するAI「IMACEL」という製品をメディアに取り上げてもらうなどの形で世の中に発信し、価値を高めること。もう一つは、インターナルコミュニケーションや社内広報を担当しています。全社ミーティングなどの行事を企画したり、毎週社員向けにレターや社内報を出すなど、広報と言いつつ、会社内外のコミュニケーションに関わるものを幅広くやっています」

実は大学卒業後、テレビ局で政治記者をしていた経歴を持つ大瀧さん。

マスメディアと医療系IT、一見全く違う業界に思えるが、なぜエルピクセルに入社したのだろうか。

「記者の頃からメディアコミュニケーションやメディアの効果などに興味を持っていて、メディアでも働いていたのですが、一旦、外に出てメディアを活用する立場を経験してみたいと思ったのがきっかけです。それと合わせて、大学院に通ってメディアについて研究したいと考えていたので、それと両立できる環境を求めていたためでもあります。2017年にエルピクセルを知って、初めは業務委託という形で手伝い、2019年に正式に参画しました。エルピクセルは『研究から、ワクワクを』を掲げています。代表をはじめ、大学院の研究室メンバーが立ち上げている会社なので、研究者が企業で研究するか、大学で研究するかという二者択一ではなく、もっといろんな道を示していきたい、それとは違う形で世の中にアウトプットをしていきたい、という思いが込められています。医療もライフサイエンスも全くの畑違いだったのですが、こうした会社のビジョンに共感して関わることにしました」

記者や広報、違った立場でありながらどちらもメディアに関わる仕事だが、そんなメディア業界に関心を抱いたのは、ある世界的な大事件がきっかけだったという。

「一番インパクトを受けた出来事は9.11です。私の誕生日が9月11日なんですが、2001年のその日を境に、やっぱり世界中の人が9.11と言うと反応しますよね。同時多発テロの映像の生中継を見たときは、映画のワンシーンかと思いました。それが今でもすごく印象に残っています。テレビが生中継をしたことで、そこから世の中が大きく変わってきて、現在にまで続いている。全世界の人が同じ出来事や、その情報だけでなく感情的なところまで共有したという、媒介メディアのメカニズムがすごく面白いなと思いました。そこからメディアというものに興味を持って、大学時代もその周辺の勉強をしていました。結構いろんなことに興味を持つタイプだったので、バックパッカーで世界を回って色々な国の人と話しましたね。そこでも誕生日のことを言うと、アメリカは勿論、ヨーロッパでもアジアでも反応があって、この出来事が共通言語みたいなものを持っているということが面白いと思いました。それが、メディアやメディアに関連する仕事に興味を持った一番コアな体験です」

会社員と大学院生という二足の草鞋を履く大瀧さんにとって、仕事と研究の両立はどのような効果をもたらしているのだろうか。

「大学院では報道やメディアの効果研究をしています。色々なケーススタディを読んでいると、仕事や自分の生きている世界とリンクしている場面に遭遇します。仕事との両立も、ベンチャー企業だと働き方に柔軟性が持てますし、特にエルピクセルは、研究者出身のメンバーも多いですし、エンジニアと研究員を両立しているメンバーもいます。研究の価値を実社会で体験して、理解をさらに深めているメンバーも多いですね。この会社に入っていなかったら、大学院に挑戦する最後の一押しをされなかったかもしれないと思います。学生の時には思いませんでしたが、社会に出て仕事して、実際にいろんなものに触れると吸収するものが全然違います。結構、相乗効果が高いと思っています」

コロナを経てコミュニケーションの形が大きく変わってきた現在、広報として大きな課題があると感じている。そんな中で、模索しながらも解決に向けた動きを始めている。

「イレギュラーなことが起きた時に、組織として内部コミュニケーションがすごく重要だなと感じました。例えば、広報で言うと、リスクコミュニケーションや危機管理広報というような部類です。自分が初めて危機管理をするような状況に直面した時に一つ言われたのが、危機的状況下ではみんな外に目が向きがちだけど、実は一番重要なのが内部。中の人にどう説明できるかだということでした。内部コミュニケーションが機能しないと組織はうまくいかないですよね。現在も、、コロナ禍が続き、会社に来ない人が増えている中でどうしていくかということに悩んでいるところです。様々な会社が集まっているInspired.Labだからこそ、大なり小なりの組織課題を共有できる部分もあるんじゃないかと思っています。エルピクセルでも部署や立場から横断的な形で人を集めて、課題をディスカッションするような取り組みを始めてみたり、外部のゲストを呼んで自分の見える視点を調整するという試みを始めたりと、まだまだ模索中です。やっぱりこういった問題の解決には、『話をする・聞く』っていう古典的な方法しかないとも感じています」

自分の問題意識と向き合いながら、仕事や研究という形でインプットとアウトプットを続けている大瀧さん。これから先の未来については、あえて明確なゴールを持っていないという。

「例えば今やってる研究を深めたい、今いる組織を良くしたい、というようなぼんやりとしたことはありますが、あまりカチッとゴールを決めないようにしています。結局今までを振り返ると、偶発的なアクシデントや経験があって今の自分に行き着きます。つまり、ゴールを決めてしまうことでこれからの可能性に制限をかけてしまうのではないかと思っています。やりたいことは、今の研究を自分の中で満足するまでやっていきたいということと、会社として目指してる方向に進み、意味のある組織にしていきたいということです。漠然とした目標ですが、これから何が起こるかも分からないのが楽しみです」

最後に、大瀧さんにとってInspired.Labとは?

「わかりやすい表現で言うと、会社だけど会社以外の場所があるという、居場所ですね。でもそれってどういうことなんだろうと考えたときに、ある種の遊びや隙間を与えてくれる存在なのだと思います。ベンチャー企業は、良くも悪くも少数精鋭なので、正直たまには息苦しくなったり外を見てみたい、という気持ちになる日もあります。これはベンチャー1社だけのオフィス空間だと絶対に成り立たない仕組みであり、すごく素敵なところだなと思います。コロナでなかなかできていなかったベンチャーで広報をやっている人の情報共有の会も作りたいです。是非これを機に、もし関心がある人がいればお問い合わせください(笑)」

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