貿易実務を簡単に、透明に。 ー デジタル技術で革新する取引方法 ー
「インフラを通じて、世界に貢献する企業であり続ける」三菱商事マシナリ株式会社(以下、マシナリ)は、電力・化学・製鉄をはじめとするプラントEPCビジネス及び関連機器、及び鉄道車両等交通システム関連機器の輸出や、ヘリコプター・防衛装備品の輸入を行う商社だ。EPC事業とは、設計エンジニアリング、調達、建設を一括したプロジェクトとして設備建設工事を請け負う契約方式で、マシナリでは、引き渡し後のプラントの操業に必要なアフターサービス事業も重要な柱として取り組んでいる。2023年度からは従来型のビジネスに加え、顧客の課題解決に向けた新規ビジネスの開発・創出に挑戦しており、BX(Business Transformation)本部 DX事業チームに所属し、新規事業開発を担当する今井香菜子さんにインタビューを行った。
「マシナリは三菱商事100%出資の事業会社で、2023年4月に新規事業開発本部(2024年からBX本部に改称)が新設されました。私は現在ここで貿易実務のDX化を目指した事業開発を担当しています。新卒でマシナリに入社してから10年以上、プラント設備の輸出やプロジェクト管理といった貿易実務やアフターサービスに携わってきた経験を生かし、海外のプラントオーナーとサプライヤーが直接繋がることが出来る多機能なプラント予備品向けマーケットプレイス『SPARE-MARKET』をリリース、そしてサプライヤーが抱える課題に特化した貿易実務支援サービス『canaco』を2022年末から本格的に開始しました。」
canacoは、デジタル技術によって引合から貿易実務に至るプロセスを可視化し、効率性を追求することで貿易実務経験が乏しくても安心して海外取引ができるサービス。貿易手続きは、難しい点が多い分自社で行うにはリスクが高く、指導にも手間や時間がかかるため人材確保が大変なほか、手続きが多いために利益に見合わないコストがかかる等様々な課題を抱えている。実際、マシナリが予備品取引(機械や設備、車両などの修理やメンテナンスに必要な予備部品を取引すること)から撤退した際、中小企業で対応が困難となり、今井さんが貿易取引に必要な実務をレクチャーしたという事例もあったそうだ。
「canacoでは、輸出手続きにおいて必要なステップや確認すべき事項のチェック項目を提示して、それに沿って作業すれば貿易実務経験が乏しい方でも海外取引が遂行可能になることを目指しています。また、貿易実務は関係者も多いため、翻訳機能付きのコミュニケーションチャットも導入し、関係者とのやり取りが円滑になるようにしました。お客さんやお客さん側の輸送業者とのメールでのやり取りも減り、二度手間が減るようにしています。進捗を聞かれた際には、すべての情報がここにあると言えるようにしたいですね。」
事業作りの経験がない中でプロジェクトを進めることは苦労の連続だったが、同時に楽しさも感じていると話す今井さん。エンジニアと話す際に、彼らの視点に立って話せるようになりたいと思い、独学でコーディングを勉強し、自分で簡単なアプリを作るなど、様々なチャレンジを続けている。
「自分の視点ではなく、使う人の立場に立って想像するのは面白いです。昔の自分だったら、『忙しいし、今じゃないかも』と理由をつけて断っていただろうと思うことも、Inspired.Labの皆さんが本当に色々なことをやっていることに刺激を受けてからは、できるかどうかではなく、やりたいかどうかだけを考えようと思えるようになったんです。私は、小学生の時からずっと学級委員や学年委員、生徒会をやっていました。何かをまとめるのが好きなんですよね。そこで毎度戦っていて、都度何かを変えてきてるんです。学年委員長になった時は学校のルールを変えたり、生徒会長になった時は新しい文化祭を立ち上げたり、学校側と生徒の間の意見の交渉とか。たぶん、何か違うことをすることや媒介するのが好きなんだと思います。新規事業が始まった時も、どうしたらいいか分からない中で、チャレンジ精神というかやってみようと軽やかでいられたのは良かったです。」
効率的で透明性の高い貿易手続きを実現するため、canacoの進化を見据える今井さんからは、貿易実務のDX化への強い想いが伝わってくる。canacoが使われる先にどのような未来を想像しているのだろう。
「まずはやっぱり事業化です。canacoの前身となるプロダクトを始めて、2020年から4年が経つところ。最終目標は貿易実務が誰でも簡単にできるようにすることですが、ファーストステップとして、複雑な業務のー部分が改善されたり、バックアップ体制が築けるようになったり、小さなことから役に立てるものを打ち上げたいと思っています。貿易業界の大きな目標としては、業界全体の実務の部分がライトになり、違う箇所で人材のリソースを押さえられるようになることです。今は色々な会社がDXをやってますが、貿易業界は大きすぎるので、最終的にはcanacoのようなハブになるサービスが重要な存在になっていくだろうと予測しています。」
今井さんにとってInspired.Labとは?
「本当に新しい風が吹く場所。これまでは関係のある会社やメーカーさん、取引先くらいしか付き合いがなかったのですが、Inspired.Labには色々な業種や働き方をされている人たちが集まっていて、雑談したりイベントで交流したりする中で、皆さんが挑戦している姿に刺激を受けますし、特に、スタートアップの方々のスピード感や勢いには圧倒されます。私としては、新しい人と知り合えるというのが一番嬉しいことかもしれません。自由な空間なので、他の会社の人とすぐに話ができるのも助かりますし、会社のオフィスと違った場所で仕事をすることで、脳が切り替わって集中しやすいです。最近は、マシナリの本社にも本が置かれたり、スーパーカジュアルフライデー(スーツでもオフィスカジュアルでなくとも、普段着での出勤が認められる日)ができたりしたのですが、会社も色々な面で刺激を受けています。あと、お昼ご飯がおいしいカフェがあるのも嬉しいですね(笑)。」