「点を打ち続けた先に、線が生まれ、新たな世界が見えてくる」
日本特殊陶業株式会社は、1936年に愛知県を中心に設立された、自動車部品の点火プラグで世界トップシェアを担うメーカー。陶業(=セラミックス)をコアに、自動車や機械の中などに同社の製品が使われている。一方で、日本特殊陶業は長期経営計画の中で、“Beyond ceramics, eXceeding imagination”「セラミックスのその先へ、想像のその先へ」を掲げ、2040年に向けて事業ポートフォリオの転換を目指して新規事業にも力を入れている。Inspired.Labメンバーの岩井恵梨さんは、日本特殊陶業で2つの事業に携わりながら活躍している。
「私は現在、新規事業創出の上で最先端の情報や人とより密に触れ合うための出島として創出されたベンチャーラボ 東京という課に所属しています。現在のメイン業務は2つあり、1つ目が新規事業創出、2つ目が社内と社外をつなぐオープンイノベーション窓口です。去年1年間はコロナ渦もありオンラインで後者のオープンイノベーション窓口を中心にやることが多かったのですが、今年はオフラインの活動にも注力し、新規事業創出の業務も加速させています。新規事業創出業務での経験がオープンイノベーションの窓口の業務に活きることもあるので、両輪のバランスを保つことが大事だと感じています」
2つの事業を通じて、社内だけでなく社外とも繋がりを生み出している岩井さん。そもそも、今の仕事を始めるきっかけはなんだったのだろうか。
「前職では電線の会社に勤めていて、日本特殊陶業には2015年に転職し入社しました。当時新聞広告に「やってみよう♪ニットクの挑戦を。」というメッセージとともに、セラミックスで夢を叶えるというテーマで寄せられていたアイディア(火星にマイホーム、人魚とデートなど)が載っていたのを見て、斬新で面白そうな会社だと思ったのが入社のきっかけです。また、転職前に夢だった世界一周を経験して、世界に貢献できるような仕事をしたいと思うようになりました。日本特殊陶業は海外の売上比率が高く、グローバルな視点で仕事ができそうだと感じたのも理由の一つです」
岩井さんは自身を、「収集心」が強い「経験値コレクター」と名付ける。様々な経験をコレクションし、それを糧にまた新たな経験を掴んでいるという。
「私のストレングスファインダーでの資質は「収集心」。実際に何か物を集めるわけではないですが、経験値コレクターなんです。新しい情報や事柄に触れ合うことにオタク気質で、日本特殊陶業に入社してからも色々な経験をさせてもらっています。初海外出張で単身ブラジルでの国際会議に参加したり、社内公募のグローバルリーダー育成プログラムでマレーシアの現地企業とディスカッションしたりしました。そういった経験値コレクターの素質は新規事業の創出に活かせるのではと思い、新規事業創出部門へ異動しました。実は、マレーシアのプログラムは当時私より職位が上のクラスが対象であったのですが、世界一周やブラジルへの単身出張の経験から英語力とサバイバル精神が認められ、チャンスを掴むことが出来ました。その時に、点が集まってやっと線になってきたという感覚を持ちました」
グローバルな視野を持つ岩井さんだが、意外なことに大学卒業まで海外経験は一切なかったそう。しかし、小さな出来事の積み重ねが世界一周をするきっかけとなった。
「実は大学時代まで、飛行機に乗ると頭が痛くなってしまって海外に行けなかったんです。でも、就職して1年目の頃に友達の影響を受けて、漠然と周囲に「いつか世界一周する」と言い続けていました(笑)。3.11が起きて、毎日忙しくても自分が大切だと思うことをやらないといけないという思いが強くなって、そこでまずスキューバダイビングに挑戦しました。予想外にも、それによって耳抜きができるようになり、おかげで飛行機に乗れるようになったんです。そんな時に、友達から「いつ世界一周するの?」と聞かれて、ちょうど前職で一区切りついたタイミングだったので、行くなら今だと思い決行しました。点を落としてきたことが結果的に繋がった経験でした。」
岩井さんは現在、仕事の他に社会人大学院に通い、都市工学を専攻している。大学では材料工学を学んでいたというが、なぜ社会人になってから大学院に入学し、全く違う学問領域へと足を踏み入れたのだろうか。
「従来から、専門性としての軸を持ちたいと考えており、世界一周だけでなく、TOEICの塾に通うなど、色々トライしていました。それでも、漠然ともやもやを抱えており、長年やりたいことに挙がっていた大学院進学を本格的に考え始めました。コロナ禍を機に時間ができたことも後押しになっています。日本特殊陶業で自身が所属するカンパニーの新規事業創出領域は、「次世代モビリティ領域」「エネルギー・環境領域」「医療・ヘルスケア領域」を3つで、どれも街に根付いてるものなので、土台として都市工学(まちづくり)だと思ったのです。また、世界一周をして人より多く様々な街を見ており、まちづくりを学ぶことでもっと人々のwell-beingに貢献できるのではと感じていたということもあります。これもまた、振り返ってみたら自分が打ってきた点が結びついて、線ができて、いい面になっていたという感覚です」
インタビュー中に繰り返し出てきた、「点と点が繋がって線になり、面になる」という言葉。そのことは、Inspired.Labに入居してからも日々感じているという。
「オープンイノベーション窓口の視点では、Inspired.Labに入居してみて多様な方がいることで社会を凝縮した視点から見ることが出来ていると思っています。実際に、Labでメンバーの皆さんとの日々の会話の中で、セラミックスという材料自体に馴染みがない方も多いということを知り良い衝撃を受けました。でも自社技術が、車や機械の中で社会を支えていることを丁寧に説明したり、何か相手のアンテナを立てるような説明の仕方をすることで、アプローチしていくことが大事だと思います。実際に、その場で結びつかなくても真摯に取り組むことで、3,4か月後、数年後にお声がけいただくケースもあるんです。程よいバランスで点を打ち続けることで、線になって、面になってるんだなと実感します」
世界一周を叶えた岩井さんの夢は、さらに広がっている。新しい世界を見るために、どんなことを意識しているのだろうか。
「自社のコーポレートメッセージは、世界トップシェアを担う点火プラグにかけて『Ignite your spirit 心と夢に火をつけろ』で、私自身もそうありたいなと思っています。また余談ですが、大学の卒業論文がスペースシャトル材料の研究であったことや、幼いころから向井千秋さんのファンであったこともあり、50歳までに宇宙に行くのが夢です。世界一周の時と同じで、とりあえず周囲に言い続けようと思っています(笑)。それが次の点になって、次のアンテナになって、新しい世界を見ることができたら面白いですよね」
最後に、岩井さんにとってInspired.Labとは?
「心を燃やして加速する場所。新規事業で自社技術の無鉛圧電セラミックスを活用したデバイスの検討をしているのですが、そのアイディエーション・実証実験・インタビューが、皆さんのご協力により当初の予定よりも6ヶ月前倒しで出来ているんです。1年で計画していたものが半年でできてしまう、そんなスピード感がありますね。Inspired.Labは応援してくれる風土がありますよね。周りの応援やそれに応えたい気持ち、そういった相乗効果もあると思います。最近では、Inspired.Labを中心に、社内外を繋いで輪を広げる取り組みをしています。専門性も持ちたいと大学院に入学しましたが、気質としてジェネラリスト寄りのため、横を繋げるのが好きなんでしょうね。専門性を持ちつつ、そのような自身の姿を通じて、Lab内や社会に刺激を与えられたらと思っています。」