誰も取り残されない社会を実現したい

竹中工務店は1610年の創業以来、建築を専業としランドマークとなる数多くの建築物を手掛け社会発展の一翼を担ってきた。昨今、地球温暖化・気候変動、社会インフラの老朽化、少子高齢化など諸問題を背景に建築に求められる機能や価値も変化してきており、これまで以上に社会と価値観を共有する企業活動が求められている。竹中グループはグループ全体の事業領域を「まち」として捉え、国内外における様々な課題に取り組み、人々が安心して暮らすことができるサステナブル社会の実現を目指している。浅井隆博さんはこの伝統と多様性を併せ持つゼネコンのエンジニアリング本部と経営企画室新規事業グループに所属している。

「エンジニアリング本部という技術職の部署と経営企画室の新規事業推進グループの2つの部署を兼務しています。竹中は、オープンイノベーションを推進する場所をCOT-Lab®(コトラボ)と名付けて拠点を増やしており、Inspired.Labには、COT-Lab®大手町として拠点を設けています。COT-Lab®大手町には私の他、経営企画室のメンバーと技術研究所のメンバーが所属しています。竹中の技術研究所には昆虫や鳥をテーマにした研究やヒトに注目した研究など建築の高度化だけにとどまらない様々な研究が行われています。ここには、その中でも健康やまちのデジタル化、ヒトの行動変異サービスなど面白いテーマをもったメンバーが所属しています。私はここで、新規事業の種探しと、モビリティやロボットの活用をテーマにした協創を目指して活動しています。モビリティ(自動運転車)がまちにどのような影響を与えるかというテーマからスタートし、それが建物に入ってくるとどうなるだろうとパーソナルモビリティ(電動車いすなど)に注目しました。私自身もパーソナルモビリティの利用者が建物の中を快適に安全に活動できる空間を作りたかったんです。そのうちパーソナルモビリティだけでなくサービスロボットも含め人間と共存できる空間をつくれば、自身がやりたかったことにつながるのではないかと自律で動くモノを全部ロボットとして検討することになりました。」

創業400年のスーパーゼネコンでエネルギッシュに働く浅井さんだが、もともと建設業界を志していたわけではなかった。

「大学では経営システム工学を学んでいました。身近にお年寄りや体が不自由な方が多かったというのもあり、介護や福祉の用具メーカーに入ろうと就職活動をしていました。その時、竹中工務店のリクルーターの方から会社説明を受けて、介護用品だけをつくるよりも人が快適に過ごせる空間づくりに関わりたいと考え、それまで全く頭になかった建設業界に入ることにしました。入社後はおもに物流施設や工場の計画に携わりました。17年間お客様の課題に対するアウトプットをし続けた結果、次第に自分の中で知識や提供できるサービスの枯渇感のようなものを感じるようになってきました。違う分野で経験を積み、視野を広げたいと強く思っていたこと、当時スタートアップ企業が盛り上がりを見せていたというのもあり、前例のないスタートアップ企業への出向を希望しました。受け入れ先のスタートアップ探しや社内手続きなど課題はあったのですが、社内でちょうど外部で挑戦する人材探しをしていたこともあり、出向することになりました。出向したスタートアップは、中小企業の技術と大手企業をマッチングするというビジネスをやっている会社です。そこでは、すごい技術力を持った方や、中小企業をなんとかしたいという熱い想いを持っている方、自身のキャリアアップを見据えて複数の企業を経験している方など今までの人生で触れ合ったことのないユニークなメンバーと一緒に働くことができました。中にはお笑い芸人をやりながらシステムエンジニアをやっている方もいて価値観が一新されました。そこで自分は、そもそも何がしたいんだというところに立ち返り、改めてお年寄りや体が不自由な方が快適に過ごせる世の中にしたいという想いを再認識する機会になりました。竹中に戻るちょうどそのタイミングで昔から私のことを応援してくれていた方が新規事業推進グループを作るからと私を誘ってくれたんです。本当に人に恵まれています。そこから、自分が想い描くお年寄りや体が不自由な方が活躍できる社会をつくるための活動を始めることになりました。」

『想いをかたちに 未来へつなぐ』現在の活動は、はっきりとした正解自体がないことが困難であると同時に面白さであると浅井さんは語る。

「いろいろな方が活躍できる社会をつくるためにロボットサービスが重要だと考えていますが、まだまだ課題が多い分野です。ロボットの機能に対する期待値が高すぎることもあるのですが、実は建物側が許容できていないケースがほとんどです。例えば、エレベーターに乗れないとか扉があるので通れないなど物理的な制約が多くあります。実証実験は行うが、実装するには予算が合わないといった事例もあり、悩むことは多いですが失敗とは思っていません。やればやるほど興味を持って声をかけてくれるお客様やロボットベンダーさんが仲間になってくださいます。上手くいかないことには理由があって、足りないことを仲間に気がつかさせてもらい、足りないことを補ってくれる人が集まって、という具合に人が人を連れてきてくれて、今すごく人に恵まれた環境で仕事ができています。私は子供の頃鍵っ子だったこともあり、その反動で喋るのが大好きなので仲間が増えていくのは本当に嬉しいですね。ロボットとも会話できる気がします(笑)。子供もお年寄りも好きだし、みんなを今私が取り組んでいることとうまく繋げられればいいですね」

思いがけず飛び込んだ建設業界。気がつけば入社から20年が経った。自分の気持ちに向き合い、個性的な人たちに囲まれながら浅井さんが思い描く優しい未来とは、どのようなものなのだろうか。

「テーマは『ドラえもんになる』です。ロボットをつくろうというのではありません。日本人は子供のころからドラえもんをベースにロボットを捉えていると思っています。ロボットが友達なんです。反対に海外だとロボットをターミネーターなどで捉えてしまっていて、ロボットは、敵・人間代替のイメージを持っているのではないでしょうか。ロボットに乗っ取られてしまうというような話題になることが多いです。ロボットは人の代替をするのではなく、人間を支える友達です。ドラえもんは道具を出すけれど自分では使わずにのび太くんに渡して、のび太くん自身が頑張りますよね。それと同じような世界観を実現したいです。いま遠隔操作できるロボットに着目しています。体が不自由な方が、遠隔でロボットを操作することにより社会参加できるというようなビジネスモデルが成り立つようになりました。私は体の不自由な方だけでなく、育児や介護で時間が取れない方、気持ちは元気だけど体力が落ちてきた高齢者の方など働きたくても働けない方が多くいると思っています。ロボットに支援される人とロボットを利用することで支援される人がいるんですよね。ロボットという道具をさっと提供して、人と共存できる空間をつくることが出来れば、その場所にいる人も遠隔で操作する人も助け合って、誰も取り残されない社会が実現できるんじゃないかなと思っています。そんな世界の実現に向けて、まだ小さいところですがコツコツと取り組んで行きたいです」

-浅井さんにとってInspired.Labとはどんな場所ですか?

「以前から思っていたのはステーション(駅)です。様々な人に会う、またそこから別れて別の場所に行く。集まって、外に出てというのが繰り返される全ての起点になる場所ですね。情報が集まる起点でもあり、発する起点でもあります。コアなコミュニケーションの起点でもあるし、自分の行きたい場所への出発点でもあります。そういえば、行くだけじゃなく帰ってくる場所もここなんですよね。それって完全に昔のドラマに登場する行きつけのバーじゃないですか(笑)。行きつけのバーは、大人になったら出来るのかなと思ってましたけど、実際私はお酒もあまり飲まないし、そういう場所にもいかないタイプだったので諦めてました。でも最近はここが行きつけですね。来たら、今日もいらっしゃったのね、というような会話もあるじゃないですか。距離感もちょうどいいですし。会社帰りにInspired.Labによっていくかというふうになっています。でも、言葉にすると行きつけのバーより、ステーションの方がかっこいいですかね。やっぱりステーションでお願いします(笑)」

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