都市交通の未来を支える技術革新を


Hayden AI Technologies Inc. (以下、Hayden AI)は、画像解析技術を活用した交通違反の取り締まりや交通状況分析のソリューションを提供する米国発のスタートアップ企業だ。路線バスなどに搭載したカメラで取得した画像データを解析し、交通違反を検知、取り締まりを支援するサービスを提供することで、都市交通の最適化を実現を目指し、違法駐車などの取り締まり業務の効率化と都市交通の安全確保に貢献している。日本とシリコンバレーを拠点にし、大学の特任・客員教授、経産省や文科省の委員等、様々な方面で活動するHayden AIの日本のカントリーマネージャー・潮尚之さんにインタビューした。

「Hayden AIの技術で重要視しているのは、AIによる高度な画像認識です。映像内の物体が人なのか車なのかを判別する技術は既に開発されているものですが、我々は技術を組み合わせることで、新たな応用を可能にしています。例えば、違反走行の検知やナンバープレートの認識には、判別技術以外に、数十センチレベルの正確な位置推定が求められ、単に何が映っているかを認識するだけでなく、それぞれのオブジェクトの関係性やコンテキストを理解することがポイントとなります。」

現在ニューヨーク市を走る約6,000台のバスのうち、既に1,000台近くにHayden AIのシステムが導入され、市営バスと警察が連携することで効率的にバス専用レーンでの駐車や走行の違反を取り締まることが可能となっている。しかし、これらのビジネスモデルを日本で同様に展開することはなかなか難しく、潮さんはこれらの技術とソリューションをどのように日本で広げていくか模索を続けている。

「創業以前からHayden AIに関わってきましたが、バス専用レーンでの違反の取り締まりのビジネスモデルは日本に適合しづらく長らく様子を見ている状態でした。しかし、日系企業からの出資が続いたことに伴って日本での事業開発にも力を入れることになり、2024年3月にEukarya社とのジョイントベンチャーで提案を行った山梨県の『TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業』にて約10倍の競争率を勝ち抜き採択されたことを機に、日本での事業展開が本格化しました。山梨県は『サイクル王国やまなし』の実現を目指しており、自転車の安全性に関する取り組みが重要視されているため、Hayden AIの技術を活用した実証実験がこの取り組みに寄与できるのではないかと考えています。自転車の走行パターンや交通量を調査し、都市計画の効率化に資する情報を提供することや、危険走行や違反走行などの自動検知の可能性の検証を行うことで、交通安全指導や取り締まりなどの効率化に貢献していきたいと思います。」

東京で生まれた後、親の転勤で、中学から高校2年生までを福岡と松山で過ごす。高校卒業後は、一浪して文系大学に進学。軽音楽サークルに所属し、バンド漬けの日々を送った。大学卒業後はすぐに就職はせず、学習塾でのアルバイトや海外放浪などをしながら、学問の道に進むか、音楽の道に進むか悩みながら2年間を過ごしたが、当時システムエンジニア(以下、SE)が不足していた時代背景から、日本電気株式会社の子会社にSEとして就職したところからキャリアがスタート。その後、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)に転職した。

「パナソニックでは14年半を過ごし、最後の4年間はシリコンバレーとプリンストンで駐在員として働きました。その後、シリコンバレーのスタートアップに移ることを決め、ビザの取得と並行して立ち上げたコンサルティングビジネスの『ITPC』は今年で19年目になります。ビザの取得後はフルタイムでシリコンバレーのスタートアップの事業開発担当として働き、ITPCでは、北米などで発掘したベンチャー企業と日本企業とのオープンイノベーションの推進を行ってきました。これらの経験を生かしながら、今では日本におけるディープテック関連のスタートアップエコシステムにも深く関わりながら、大学発の技術シーズの社会実装と事業化を、大学の特任・客員教授及び国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の委員として推進しています。私は、技術の社会実装やスタートアップの事業開発に取り組むアントレプレナーの支援者で、専門分野としては、画像処理や音声認識のAI、センサー・デバイス、オートモーティブ関連など。最近ではアグテックやフードテックにも力を入れています。」

これまで数多くの北米ベンチャー企業を支援してきた中で、イノベーター達には失敗という概念がなく、「今日やれることは明日に延ばす」ではなく「明日やれることは明日やろう」という人生訓が身についたと話す潮さん。失敗を恐れず、物事を「良い加減」で進める感覚は、今後Hayden AIが日本での展開を進めるためにも重要な要素だという。

「Hayden AIが日本での事業展開のプライオリティを上げるためは、Low-Hanging Fruit(獲得しやすい案件)に焦点を当てることが求められています。しかし、多くの日本企業は、意思決定に時間がかかり、品質に対する要求も高いため、スタートアップのスピード感を活かすことが難しいのが現状です。米国で長年スタートアップの事業開発を行う中で、多くの有償のPoC(概念実証)を獲得してきましたが、次の展開へ進む上で、スタートアップならではのリソースの制約やプライオリティの課題を抱え、クライアントへの対応に苦慮してきました。Hayden AIにおいては、こういった経験も活かしつつ、効果的に日本での事業開発を進めていきたいと思っています。また、限られたリソースを活かしながら、パートナー企業の開拓と適切な人材の発掘にも取り組んでいきたいです。日本では北米のように専門性を活かしてジョブホッピングをすることが一般的ではないため、短期間で経験を積んで次のキャリアに活かすという考え方がまだあまり広まっておらず、チームビルディングには慎重にならざるを得ません。本社が資金調達の進展とともに成長を続ける中で、日本側の対応が不十分にならないよう務めていくことが、当面の課題だと感じています。」

潮さんは自身のスタートアップ企業への支援活動を「スタートアップ発掘のB級グルメ」と笑いながら話すが、これは、優れた技術を持っていてもマーケティングや経営の経験が少ない人たちのビジネスを支援することを意味している。日本企業に対してオープンイノベーションを推進し、シリコンバレーに進出する手助けをしてきた潮さん。今後どのような世界を描いていくのだろう。

「Hayden AIに関していうと、日本でどのようにマネタイズするかという課題があります。技術がより活きるキラーアプリケーションを見つけるところが今後のチャレンジですが、それが本社側の開発のロードマップと上手く合致すれば最高ですね。また、個人的な話ですと、年齢も重ねてきているので働き方については悩みがつきません。長らくシリコンバレーと日本の二拠点生活を続けていて、ほぼ毎月の頻度でシリコンバレーと行き来しています。ベンチャーの仕事をやりつつ他の仕事もこなしている状況で、なかなか大変ではありますがやりがいを感じています。」

最後に、潮さんにとってInspired.Labとは?

「気軽に立ち寄れる『止まり木』のような場所。朝にはコーヒーを飲んでリフレッシュし、疲れた日はビールを一杯楽しめる。我が心のインスピレーション、まさにインスパイアされる場所です。」

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