ビットクォーク株式会社(以下、ビットクォーク)は、製造や物流業界において様々な状況を予測、試行、分析するシミュレーター「assimee(アシミー)」を提供する会社だ。assimeeは、工場や物流センターにおいて未だ属人化している日々の最適な人員や在庫の配置、業務配分などをデスクトップ上で精密に再現することで、サステイナブルな生産体制を整え、現場で働く人々がより創造的な活動に集中できる環境を提供する。ビットクォークのCFOとして、経営企画やコーポレートの領域の担当から、営業、事業開発まで幅広く業務を担う樋渡真生さんにインタビューを行った。
「ビットクォークではCFOとして経営企画やコーポレートの領域を主に担当していますが、弊社は技術者が多いので、事業開発に留まらず、営業など幅広くビジネス領域を頑張っていきたいと思っております。」
「assimeeは、Webブラウザ上ですぐに使用できるSaaSのプロセスシミュレーターで、ノーコードの分かりやすいUI/UXが特徴です。プログラミングなどの前提知識がなくても高精度なシミュレーションが可能となるため、導入からシミュレーションの実行までのコストが大幅に削減され、スピーディな意思決定をサポートすることができます。assimeeを通して持続可能な生産体制を作り、現場の苦労を解決していきたいと思っています。」
高校までを鹿児島で過ごし、大学進学を機に上京した樋渡さん。地方から都会に出てきたことは大きな意思決定の一つだったという。卒業後は新卒で銀行に入社し、融資・決済の提案や取引を行う法人営業を東京・関西合わせて5年担当。大企業に向けた投資銀行業務を経験した後、銀行内に新商品開発チームができたタイミングで部署を異動。そこから樋渡さんの新規事業開発のキャリアが始まった。
「銀行は、不動産などの保有資産や業績といった財務の数値が融資における主な指標となるので、新しい事業や取引に対して相応にハードルがあります。そこで新商品開発チームでは、データを活用した融資の方法を模索し、財務の評価では難しい企業への融資をフィンテックで解決できないかという取り組み等を行っていました。そのようなミッションにやりがいを感じつつ、在庫を持てないことや、出資の上限があるなど、銀行法による制限も存在しているため、新規事業に関わるなら事業会社でチャレンジしてみたいと思い、ご縁があってNECの新規事業ポジションに転職しました。そこでデジタルファイナンスやデジタルガバメントなど幅広く事業開発に携らせてもらったのち、ビットクォークの前身である会社から、より小さい組織で事業開発を担えるassimee事業のプロダクト開発の話を聞き、ジョインすることにしました。」
実はビットクォークはカーブアウトで出来た会社。assimeeは2016年から始まったNEC-産総研人工知能連携研究室を起源とするプロジェクトで、2020年に設立されたBIRD INITIATIVE株式会社にてスタートアップ事業として立ち上げられた。当初はコンサル業の形で研究成果を提供していたが、2022年にプロダクトとしての開発に移行。研究者が中心の企業で、ビジネス領域の人材を探している状況に合致したのが樋渡さんだった。
「assimeeは元々カーブアウトを前提に作られた事業です。入社した2022年の9月時点で次年度の予算が未確定だったので、残り半年でカーブアウトしない場合には事業停止もあり得る状況でした。assimeeには既に顧客もいたので、何とか事業を継続させたいなと思い投資家と交渉したり、関係当事者から了承してもらったりと奔走し、2023年4月になんとかカーブアウトさせることができました。メンバーが過去に創業経験があったことや、会社がカンパニー制をとっていたこともプラスに働いたんじゃないかなと思います。」
現在ビットクォークではassimee以外の新規事業にも取り組んでおり、社員一人ひとりがマルチに活躍しお互いに補い合いながら業務を進めている。業務の幅の広さは大変な面も多いが、自身が裁量を持ちながらスピード感を持って事業を進められる柔軟性は、大企業では味わうことができなかった面白さだと話す樋渡さん。最近は社長も含めて現場に赴く機会も増え、お客様のためにプロダクトが開発されていく手触り感もあるという。
「銀行で働いていた時のお客様は半分以上が製造業だったので、製造業の課題や取り組みは親しみのある領域でしたが、ビットクォークに入社し製造業の実態や課題に触れ、銀行員の立場からは理解できていなかった奥深さにも気づきました。今はまず、喫緊のニーズが多い大企業を中心にアプローチしています。例えば大企業の工場や物流センターでは、立地の観点からも、急な人員確保などリソースの確保が難しい等、最適な生産体制確立の必要性は非常に高いです。また、大きな企業であればあるほど決裁までの時間もかかるので、その辺りも踏まえて、サービス導入を増やすためにどうしていこうか模索している段階です。」
ビットクォークは、2024年2月に2億円の資金調達完了を発表。もっとも、当初投資家との接点はなく全くの手探りの状況で、投資家の獲得は非常に困難だったという。さらに、カーブアウト系のスタートアップは資本構成が複雑なことも多く、投資家との調整にも時間がかかったそうだ。しかし、カーブアウトする前に動き出したことも幸をなし、2023年8月にリード投資家から1億円の調達を実現。今回の調達も上手く実現した。これからビットクォークはどのような世界を目指しているのだろう。
「まずはassimeeを展開し、現場の臨機応変な意思決定を持続可能なものにできるよう毎日の業務のサポートをしていきたいですね。そして、中長期的にはお客様の業務にエンターテインメントをもたらしていきたいです。というのも、製造業や物理作業は黙々としているイメージがあり、実は素晴らしい取り組みが行われているにも関わらず、価値が見えにくい業界です。assimeeを始めとするプロダクトや事業を通じて、人々が楽しみながら充実感を得られるようなサポートまで出来たらいいなと考えています。また、個人として、中長期的には事業開発や経営企画の経験を活かして、小さくても良いので新しい取り組みに挑戦したいと考えています。新しい事業を立ち上げるのか、ビットクォークとして別の事業をするのかどのような形になるかは分かりませんが、技術領域以外の社会課題にも興味があります。」
最後に、樋渡さんにとってInspired.Labとは?
「大企業からスタートアップに移ったことでよく分かりましたが、スタートアップは大企業の方とお話しができる機会自体多くはないので、同じ空間で普通に会話できることが本当にありがたいです。コミュニティオーガナイザーの皆さんが人を繋いでくださったり、イベントが定期的にあったり、入居者同士の距離が近いこともコミュニケーションのとりやすさにつながっていて、これは他のシェアオフィスと一線を画しているポイントだと思います。弊社は今大企業を中心に営業しているプロダクトなので、壁打ちをさせてもらったり、方向性が合えば一緒に共創のような形でPoCを進めさせてもらったりと、貴重な機会をいただいています。」