自分の仕事を宇宙にシフトしたかった

イーロン・マスクにジェフ・ベゾス、ビジネス界の大物が続々と参入する宇宙ビジネス。その市場規模は10年で約2倍に拡大し、今後その勢いはますます加速していくだろう。そんな空の上のブルーオーシャンをここInspired.Labから開拓しようとしているのが金本成生さんが代表を務めるスペースシフトだ。スペースシフトは「AI×宇宙で世界をひもとく」をテーマに、地球観測衛星のデータをAIを用いて解析するソフトウェアの開発を行なっている。

「現在、地球観測衛星は300−400機打ち上げられていて、地球を90分で1周するスピードで回りながら地上の様子を観測しています。従来自動解析に活用されていた衛星データは、主に光学衛星による可視光を用いた衛星写真だったのですが、これに対して衛星から発するマイクロ波の反射により地表を見るSAR衛星は、太陽の光を必要としないため、悪天候で雲があっても、日の差さない深夜であっても地上の様子を観測することができます。我々はこのSAR衛星のデータに特化してAIの開発をしています。より多くの情報を衛星データから引き出すことや、より精度の高いソフトウェアを提供することで、近年増加している水災時の迅速な被害把握、農作物の正確なモニタリング、地盤沈下や隆起データのミリ単位での解析など、地球上のあらゆるものの変化を検知することができます。そして今、衛星データから得た結果をどう使うかというところに注目が集まっています」

金本さんは鳥取県の淀江町という星空が美しい町で生まれ育ち、小学2年生の頃にハレー彗星に興味を持ったことをきっかけに宇宙の虜になった。少年時代は天文学者を志すが、一度は宇宙への想いを封印し大学在学時にITベンチャーを起業する。

「天文学者は潰しが効かないということを高校の時くらいに知って(笑)。コンピューターも好きで幼い頃からプログラミングをやっていたので、インターネットが入ってきた時期というのもあり大阪でITの会社を立ち上げてWEB制作などをしていました。3年くらいやったところで大阪での仕事に面白みを感じられなくなり、インターネットバブルの真っ只中アメリカに行こうと思い立ちました。アメリカには行ったことがなかったのですが、学生の時にバンドを組んで洋楽のコピーをやっていたので英語は割と聞き取れたし、行けば何とかなるかなと。ちょうどそのバンド仲間がLAに住んでいたので、居候しながら就職活動をしました。無事、喜多郎という日本人アーティストのレコード会社に入り半年くらいLAにいたのですが、その会社が翌年に東京に支社を作ることになったので、すぐに日本に戻って来ました。レコード会社とはいえ、やっていたのはIT関連でネットサービスや、携帯コンテンツ作りでした。コンテンツの権利交渉も数多くやりましたね。2006年のW杯サッカーのドイツ大会の時は、試合の映像を携帯で配信する権利を取りにチューリッヒのFIFA本部にも行きました。実はカラオケで洋楽のライブビデオを流すというのを1番最初にやったのも僕です。この頃は宇宙とは全然関係ないことやってましたね」

それでも、少年時代の憧れが消えることはなかったと言う。

「ITの仕事をやりながらも、出張でアメリカに行っていた時にイーロンマスクがロケットを打ち上げていたのを横目で見て自分もやはり何か宇宙のことをやりたいなと思いました。それで、立ち上げたのがスペースシフトです。基本的にコンテンツの仕事していたので何か宇宙コンテンツができないかなと考え、ロケットの部品をガチャガチャにして売ったり、衛星の内部の電光掲示板にメッセージや広告が出せる宇宙デジタルサイネージというサービスをやったりしました。あとは、様々な宇宙イベントを開催しましたね。クラブミュージック系の音楽イベントにJAXAの人や松本零士さんを呼んだり、みんなで金環日食を観るイベントで宇宙ブースのようなでっかいテントを丸々企画したりしました。めちゃくちゃ楽しかったし、めちゃくちゃ受けたんですけどどれも全然お金にならなくて(笑)。それだけではビジネスにならないので、キヤノン電子の宇宙事業の立ち上げなど宇宙ビジネスのコンサルをやっていました。衛星ビジネスの事業計画を作ったり、ロケットの手配をしたりです。宇宙とITの仕事は関係なさそうなんですけど、世界中を回って集めた権利を日本で売ったり、逆に日本のものを世界で売ったりという契約の仕組みや交渉の進め方は同じなんです。この時はITでの経験がすごく活きましたね。コンテンツビジネスやコンサルの仕事をしながらも、衛星データの解析が1番最初に立ち上がる大きな宇宙ビジネスだと分かっていたので、そこにどう関わろうかということををずっと考えていました。衛星のデータを解析するAIを開発する会社が何社か出てきたのですが、レーダーを使っている会社がまだ少なかったし自分の中でSAR衛星だったらこういうことができるなというアイデアもありました。そのタイミングで葛岡さんというSAR衛星をもともと開発していた方と知り合いました。僕のアイデアを話したら、賛同してくれて正式に役員として参加してもらうことになり開発事業をスタートさせました」

勢いを得たスペースシフトは、今年の2月に5億円の資金調達を実施した。好きを原動力にここまで駆け抜けてきた金本さんは、今何を思うのだろうか。

「スペースシフトを立ち上げた頃は、宇宙ベンチャーなんて全然なかったし、開かれた世界ではなかったのでなかなか仕事にならなかったんですよね。それでもやりたいことがあるという原点に立ち帰りました。会社名は、自分の仕事を宇宙にシフトしたい、というのでスペースシフトなんです。また、社会全体が宇宙を使う方向にシフトして欲しいという願いも込められています。前例どころかやり方自体もないので、宇宙以外のビジネスでの売り上げを切り捨てて宇宙にシフトするというのは正直しんどかったです。でも想いの強さや、諦めない辞めないということが1番大事だと思っているんです。結局何かをやろうとして、途中でやめてしまうのが失敗じゃないですか。やめなければ、何かにはなると信じているんです。僕はどうにかなるまでは絶対やめないと決めているし、やり切るというのがどういう仕事にも大切だと思うんです。今も資金調達はしてるけど、まだ何も成功はしていないですから。まだまだこれからです!」

金本さんの想いは宇宙のように大きい。

-金本さんにとってInspired.Labとはどんな場所ですか?

「この事業で絶対やってやるぞと決めた第二のスタートをした場所ですね。Inspired.Labに来てなかったら今年行った資金調達もなかったかもしれないと思っています。実は、メンバーの方が今回投資してくれたファンドの方を紹介してくれたことがきっかけで話が進みました。Inspired.Labがなかったら今の自分はないんじゃないかなと思います。本来は大企業とコラボのようなことがテーマだと思いますし、もちろん期待はしているんですけど、無理やり起こそうとするのではなく今のまま自然な交流の場であり続けてほしいですね。ベンチャーはどうしても少人数から始まるので、その間は社内でもコミュニティができないじゃないですか。行き詰まった時もこういう場所があると紛れます。これから仲間が増えていく中で、可能ならみんなで集まってガヤガヤしたいですね。僕が今後ここを出ることがあったとしても、忘れることはないですし出た後でも繋がっていると思いますよ」

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