データビジネスの新機軸から日本のイノベーション力を再生する
「溢れる情報を整え、魅力ある未来へと還元する」。DSInnovation株式会社(以下、DSI)は、データビジネスパートナーとして、課題へのソリューション提供から新しい事業構築までをクライアントと共創し、パーソナルデータの積極的な利活用を推進する企業だ。データを活用した事業創造支援を行う他、データデザイン・研究支援事業、パーソナル・ビッグデータ事業に取り組み、データに総合的に関わることで、企業内におけるDX関連の人財教育から実践的DXコンサルティングまで、幅広い支援を展開している。2023年1月から代表取締役を務める戸田奨さんは、これまで様々な企業で経営者としてビジネスモデルの構築を行い、DSIで新規事業創出と事業モデルの再構築に取り組んでいる。
「シヤチハタ株式会社の子会社であるDSIは、過去の売上データや収益録の分析等色々な数字分析を行い、データサイエンティストをイノベートする会社です。経営的に事業収益を生みにくい業態なので、現在事業再編に取り組んでいるところです。
私が捉える『DS』には3つの意味があります。ひとつは、Data Scientists(データサイエンティスト=データを解析する専門家)。2つ目が、Digital Services(デジタルサービス=Saasを活用したクラウドサービス)。そして3つ目が、Dual synchronize(デュアル シンクロナイズド=異なる企業や事業を組み合わせること)です。元々の強みであるデータ分析の事業を軸に、事業の幅を拡大し収益力のある会社にしていきたいと考えています。」
父親の仕事の関係で、中学・高校生活を米軍基地がある山口県岩国市で送った戸田さん。基地で暮らす人と交流するなかで英語が自然と得意になり、いつかアメリカで仕事をしたいと考えるようになったという。小さい頃から数字やデータが好きだったことから、慶應義塾大学経済学部に進学し統計学を専攻。海外で働くチャンスと経営の仕事ができる会社で働きたいと思い、新卒で伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠)に入社した。
「6年目にアメリカに駐在となり、8年間で3つの事業を立ち上げました。伊藤忠では、本当に色々なことを経験させてもらいましたね。私の原点は数字が好きだったことと、ビジネスプレゼンを繰り返して収益が生み出される瞬間を何度も間近で見てきたことです。外国人が本社の副社長になり、その人と一緒に事業をした経験も大きかったです。現地のアメリカ人を雇って新しい支店を2つ開いたり、日本から合弁企業を引っ張ってきて事業を作ったりと、新規事業をつくるパイオニアのような存在だったので、これが自分の生き様になっていくのかもしれないと思うようになりました。」
その後、株式会社ユニクロや、ミスミグループを経て、アマゾンジャパン株式会社(以下、アマゾンジャパン)に入社。シアトル本社で1年間働いた後、アマゾンジャパンの副社長に就任した。アマゾンジャパン退社後は、複数の企業で代表取締役として企業再編・事業計画の策定を担い、現在はDSIの取締役、シヤチハタ株式会社(以下、シヤチハタ)の取締役、象印マホービン株式会社の取締役を兼務している。
「コロナ禍によるクラウドサービス拡大の追い風を機に、現在シヤチハタでは、データサイエンティストを組み込み、ブロックチェーン技術を活用したクラウド化の推進とECサイトの立ち上げを行っています。DSIでは、電子印鑑をコアとして、電子決裁、電子契約の『シヤチハタクラウド』の推進と、自社商品のダイレクトECサイトの立ち上げを行っているところです。具体的には、パートナー企業とのコラボレーションでプライベートブロックチェーンを活用して、メタバースでのオンライン授業+NFT学生証を実装したサービスを展開する予定です。また、特許はあるけれど社内に埋もれてしまい製品化されていない技術も多くあるので、今はそれらをひとつずつ引っ張り出し、大学の教授や企業にプレゼンさせてもらうなどして、Dualに即した事業を生み出していこうと動いています。電子決裁クラウドサービスでは、同じくInspired.Labに入居しているContractS株式会社さん(契約DXツールを提供する会社)と親和性を感じ、先日色々なお話をさせていただきました。Inspired.Labには、多様な事業がそれぞれの事業フェーズで存在しているので、異なる企業や事業を組み合わせることによるイノベーションが起こりやすい環境です。様々な企業の方とつながることで、ビジネスモデルの構築を進めていきたいと思っています。」
商社、アパレル、FA/金型部品、EC、コールセンター、ワイン、携帯電話、貴金属/ダイヤモンド、ハンコ、電気炊飯器、デジタルサービスなどこれまで11社を経験し、多岐にわたる業界・業種で常に新しい挑戦を楽しんできた戸田さん。アマゾンを創設したジェフ・ベゾスが、多くの人々から反対されたなかでインターネット上で書籍販売のビジネスを立ち上げ、後にビジネスが成功したことで周囲から大いに賞賛を受けたという例を挙げ、イノベーションの真髄について語ってくれた。
「イノベーションとは『そんなバカな。なるほどね。』を表す言葉です。周囲から反対されたり、理解されなかったりすることがあっても、後になってそのアイデアが革新的だったと認められると『そんなバカな。なるほどね。』に繋がります。失敗したビジネスもやり方が違うだけで、そこから新しい視点を見つけ出すことができるか。ジェフ・ベゾスの話もまさにそうで、本屋とインターネットという既存のものを組み合わせて別の視点を生み出していていますよね。つまり、DSIが持つ意味のひとつであるDual Synchronize(=異なる企業や事業を組み合わせること)も、イノベーションの核となります。そして事業再編に最も重要なことは、過去の経験を振り返り、反省し、成長すること。私としては、何かやりたいけどくすぶっている人たちを引っ張り上げていきたいのです。これまで多くのご縁に恵まれ、色んなことを学ばせていただいたので、若手を育てることがお世話になった方々への恩返しだと思っています。」
自身の多様なキャリアと経験から、困難な状況に直面した際にもポジティブな言葉や口調を使うように心がけているという戸田さん。この先、どのような世界を描いているのだろう。
「まずはDSIを黒字化すること。そして、新しい事業を生み出すことやインスパイアされる楽しさを他の人にも伝えていきたいです。大企業では、一度成功してしまうことで守りに入ってしまい、イノベーションのジレンマが起こっている可能性があるので、新規事業提案が受け入れられにくいのが現状です。そこから脱出して、新しいイノベーションを実現させたいと思っています。日本では金儲けが悪い捉えられ方をされることがありますが、儲かるということは社会的な価値を生み出している証。日本は昔から優れた技術を持ったイノベーション先駆者です。その誇りを持って、新しいことを生み出すことが楽しいと思える国にしていきたい。DSIからその流れを生み出していければいけたらいいなと思っています。」
最後に、戸田さんにとってInspired.Labとは?
「本当に出会いの場ですよね。自由に仕事ができて、空いた時間に色々な人と話ができるので、様々なインスピレーションが湧いてきます。まるで遊び場のような感じで、ここにいるとなんでも出来そうだと思えます。大企業にもやはり新規事業が必要で、オープンな場所での積極的なコミュニケーションは重要なポイントです。シヤチハタの社員もなるべく連れてきて、会社を変える一つの実験場にしていきたいです。大手町ビルという歴史的な建物の中で、最新鋭のビジネスが生まれているというパラドックスも魅力的ですよね。最新の建物が多く並ぶ大手町で、一番低いビルというのはかっこいい。私は、どんな小さなことでも得意を見つけて一番になることがとても大切だと考えているのですが、それを会社の人たちにも学んでもらえる場所になって欲しいです。」