大手町ビル 屋上

緑の価値を街へ贈る ― 都市の屋上と地域の中から ―


「想いをかたちに 未来へつなぐ」建築を通して、社会に様々な機会や場所を提供してきた竹中工務店は、多くの課題を抱える現代の社会環境を踏まえ、まちづくりを通した未来のサステナブルな社会の実現を目指した取り組みを行っている。今回インタビューを行った蓑茂雄二郎さんは、まちづくり戦略室に所属し、Inspired.Labのある大手町ビルの屋上で葡萄を栽培し地域産のワインを作るシティヴィンヤードプロジェクトと、竹中工務店が地域連携協定を結ぶ埼玉県比企郡小川町でのまちづくり活動の主に2つのプロジェクトを担当している。

「入社時の専門はランドスケープデザインです。竹中工務店は、織田信長に仕えていた宮大工から始まり、近代は鉄骨やコンクリートの建物を扱う会社になりましたが、今後日本全国人口が減っていく中で、建設事業だけで果たして良いのだろうかという問いから、建物だけではなくまち全体に関わっていこうということで「まちづくり総合エンジニアリング企業」を標榜し、新たにまちづくり戦略室が設立されました。活動場所は都市だけではなく、社会課題が顕著に現れている地方都市に入り込んで、地域課題を理解した上での新規事業の種探しや新しい人とのネットワークを探索するチームです。」

まちづくり戦略室が恒久組織となり、新たに西日本チームも生まれ、現在兼務者併せて20名が所属している。屋上での葡萄栽培とワイン造りを始めた背景には何があったのだろう。

「都心の緑地は法的に必要とされているものなのですが、維持管理にお金がかかることや、落ち葉が気になるなど、緑化をネガティブに捉える方もいて、緑の価値とは何だろうという課題感を個人として持つようになりました。みんなが楽しく、かつ経済活動もできるような緑の在り方はないかと模索するなかで、ニューヨークに行く機会があり、都市農業が地域や街区の価値向上に寄与していることを目の当たりにしたんですよ。昔は犯罪だらけのニューヨークの一等地が、都市農業によって良い循環が生まれ、街の活気に影響を及ぼしてるのが面白いなと思いました。それがシティヴィンヤードプロジェクトを始めたきっかけとなりました。」

子どもの頃から、川に遊びに行ったり、釣りをしたりと自然が好きだったという蓑茂さん。高校生の頃、デザインや建築に興味があったが、東京農業大学造園学科に進学。新卒で竹中工務店に入社し、ランドスケープの設計職を経て技術研究所(以下技研)でグリーンインフラや生物多様性配慮の緑地づくりに関する研究開発を務めた。

「出身は神奈川県厚木市で、丹沢の山を一望できるのですが、実は小川町も、平野からちょうど山の裾間に当たる場所にあるんですよね。僕は、そんな場所が落ち着くのかもしれません。自然とか庭とか、そういう方がしっくり来るんですよね。ランドスケープデザインでは、ハードの側面だけではなく、ソフトの側面も設計に含まれるのですが、私が設計に所属していた約8年間で、実際空間になったのは3〜4つ。一つのプロジェクトにものすごく時間がかかります。その後技研では、鳥の専門家、虫の専門家、植物の専門家など、生き物や環境に関わる分野の部署だったのですが、私は、もう少し街のことや、街の価値を上げるために緑をどう使うかということに興味を持っていたので、まちづくり戦略室ができた時に声をかけてもらい自ら異動したいと志願しました。」

現在連携協定を結んでいるのは、埼玉県の小川町以外に、島根県の雲南市、長野県の塩尻市。地域に様々な課題がある中で、キーワードのひとつとなったのは「歴史のある町」。そしてもう一つは、森林問題だ。木造木質建築推進の動きも重なり、色々なご縁があって小川町と連携協定しました。

「プロジェクトは今年で4年目に入り、小川町の事を何も知らない状況から、今では小川町に興味を持つ企業の方々をご案内し共創の検討をしたり、地域の困り事の相談を受けたり、町の伴走支援を行っています。2020年5月からは、築100年の石蔵をコワーキングスペースにする取り組みが始まりました。元々、ワークショップの会場として借りられたり、NPOが映画の上映会をしたりと、街のコミュニティセンターのような役割を担っていたのですが、耐震や施設環境などで色々な課題があり、上手く活用できていない状態が続いていました。そんな中、COVID-19の流行で地域に住む人が仕事のできる場所を確保できなくなってしまい、これは町や竹中で連携して解決しようということで補助金を活用したプロジェクトが始まりました。」

小川町ではこれから森林問題を扱い、戦後、森林が木材畑になって以来の課題の解決を企業で連携して解決していくプロジェクトにしていきたいと話す蓑茂さん。大手町ビルの屋上農園でのワインづくりについてはどのように考えているのだろうか。

「自分が常に考えているキーワードのひとつに『豊かさ』があって、東京での豊かさとは何だろうと思うのですが、そのひとつとして、街中にある屋上で自慢の葡萄やワインを作れる世界が実現できたらいいなと思っています。現在大手町ビルでは、葡萄を5種類、土壌を3種類、3×5=計15の試験体で葡萄栽培の実証実験をしていて、今年は6kgほどを収穫しました。農園がコミュニケーションツールとなって、ビルで働く皆さんが葡萄の剪定や収穫をして仲良くなったり、 ワインを飲んで関係性ができたりするすることがエリアの価値となり、新しい共創を生む場になることを期待しています。」

様々な分野のプロフェッショナルがいる竹中工務店だが、屋上農園のプロジェクトも、小川町でのまちづくりも、社外の専門家とコラボレーションをしないと課題解決できないという点が難しさだと話す蓑茂さん。その一方で、新しい人と出会い、話しができるということがとても楽しいという。

「この間、ワインのイベントでたまたま隣になった方に、『あなたのパッションプロジェクトは何ですか?』と聞かれて、その時パッと思い浮かんだのは、やはりシティヴィンヤードプロジェクトと小川町のまちづくりのことでした。これから、この自分のパッションをいかに会社の流れに乗せられるかということが大事だなと思っています。そしてそれは、Inspired.Labにいる様々な分野の企業の皆さんや、その方々と繋げてくれるコミュニティオーガナイザーさんとの共創によって解決できるような兆しを感じています。小川町のプロジェクトでは、地域に入り込みすぎて自分の立ち位置がどこにあるのか分からなくなってしまう時があるのですが(笑)、会社を動かす以上はロジックを作らないといけないと思っているので、Inspired.Labにいる皆さんと話してそのヒントを得られることこそが、この場所にいる価値なのかなと思っています。」

蓑茂さんが目指す未来の社会の姿とは。

「小川町で活動していると、幸せって何だろうと強く思うのですが、私は人に頼り、頼られて生きる世界がとても幸せだなと感じています。小川町では、困ったことがあれば相談されるし、逆に僕が困っていることを相談できる人がいて場所がある。それがとても豊かな生き方だなと思うのです。竹中工務店や今後連携させてもらう企業の方々ともそんな風にいられる雰囲気にしていけると、それこそが共創や新しい価値づくりにつながるのかなと思っています。」

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