ワイヤレス給電が当たり前の世界へ

ワイヤレス給電は私たちの生活を大きく変える可能性を秘めたテクノロジーだ。電気自動車分野を牽引するテスラ社の語源にもなった天才発明家ニコラ・テスラが1890年代に挑戦し、実用に至らなかった無線送電。Aeterlinkは100年の時を超えて今その高度な技術に挑んでいる。配線なきデジタル改革を目論むスタートアップ企業で邁進しているのがInspired.Labメンバーの岩佐凌さんだ。

「長距離ワイヤレス給電というのは、電力を15m-20m離れた場所にワイヤレスで伝送する技術です。その技術を様々な形で世の中に実装していくことがAeterlinkの使命です。元々は「薬では治療できない病気の解決」をテーマにインプラントデバイス、並びにインプラントデバイスへのワイヤレス給電技術の開発を行ってきました。例えば、心臓のペースメーカーを世界最小レベルまで小型化し、実際に動物の心臓の中に埋め込み、体外から体内への給電といったことを行ってきました。心臓の深部までワイヤレスで送電するというのは画期的なことで、大きな手術の必要もなくなります。ただ、医療用途というのはすごくお金も時間もかかるので、バイオではないところでも事業をつくる必要がありました。そこで今は、FA(工場における生産工程の自動化を図るシステム)のセンサーや、ここのようなオフィスで使われるセンサーを全部ワイヤレス給電で動かすということに取り組むようになりました。僕自身は技術者ではないので、技術面以外のことを全てやっています。事業戦略策定から資金調達、セールス、マーケティング、さらには財務経理関係や法律関係、採用まで、会社経営というところは全てです。何かエラーが起きたときに走っていくのも僕です。最初はここまで1人でやるとは思ってなかったですね(笑)」

岩佐さんは、経営者だった父親の影響で学生時代からいずれは自らも起業して上場するという目標を立てていた。大学卒業後はビジネスセンスを養うべく商社に入社し、トヨタグループの電気自動車、自動運転のプロジェクトに参画する。その過程で駐在した米国にて、スタンフォード大学でバイオメディカル領域での無線給電の研究を行っていた、後にAeterlinkの共同創業者となる田邉勇二さんと運命的な出会いを果たす。2人がアメリカで共に過ごした時間は2日間だったが、岩佐さんは田邉さんと同じ船に乗ることを決める。

「理由は2つあります。1つはお互いのリソース、役割が分かれていたことです。田邉さんは素晴らしい技術がありましたが、それを何に使っていいのかがわからなかった。僕は商社時代に毎日行っていたトヨタの工場で、ワイヤが断線して工場のラインがストップするのを見てきていました。トヨタは1分間で300万円の価値を生み出していて、1分あるとそのラインで約1.5台の車が生産できます。数分止まるだけでも、とんでもない額の機会損失なんです。その原因の一つがワイヤの断線だということを僕は知っていたので、この問題[ペイン]に対するソリューションを開発すれば売れると田邉と会ったときに確信しました。僕はビジネスを立ち上げることができる。田邉には圧倒的な技術力がある。ニーズがあっていたというのが大きかったですね。もう1つの理由は人間性です。技術者はギークというか、人間性とかコミュニケーションはどうでもいいという人が多いんですけど、田邉はすごくフラットで信頼できると感じました。やはり会社を辞めて起業するとなるとリスクが大きい。でも、この人とだったら一緒に冒険しても、航海に出てもいいかなと思いました」

確信めいたものを胸に大海原へ漕ぎ出した2人だったが、そこに待ち受けていたのは予想外の荒波だった。

「最初はどこにいっても受け入れられませんでした。興味は持ってもらえても、お金を払って契約となると話は別だったんです。ノーと言われ続けた数ヶ月は本当に苦しかったですね。でも、とにかくなんでもやろうと思っていました。あらゆるイベントにも顔を出しました。すると、あるイベントで僕が行った3分間のピッチをテレビ東京のディレクターの方が見ていて、テレビでAeterlinkが特集されることが決まったんです。テレビに出演してからは顧客の反応が劇的によくなり、そこから流れが大きく変わりました。成功した起業家は、緻密に計画してその通りにいきましたなんてよく言いますけど、僕は絶対そんなのは嘘だと思っています。計画通りいくことなどあり得ないと。本当に偶発性の連続でしかないんですよ。いかにその偶発性から生まれる運やチャンスを掴めるかということです。もちろん実力がなければチャンスは掴めないので、実力を常につけつつ様々な場に顔を出していくことが重要だと思っています」

自らの手で航路を照らした岩佐さん。憧れを乗せた船はどんな未来へ向かうのだろうか。 

「今まで世の中になかったものを作りたいというのが根底にあるので、それが実現できると思えることは大きな喜びです。Aeterlinkとしては上場するというのが一つの大きな目標です。2024年の7月期の上場に向けた上場準備に入りました。もちろん上場のみがゴールではなく、企業価値1,000億円を越える会社にしたいと思っています。そしてワイヤレス給電があることが当たり前な世界を実現していきたいです。それは僕らにしかできないミッションですから。いずれ競合が出てくると思うのですが、市場のパイがどんどん広がっていけばそれでいい。僕たちの手で新しい市場を作っていければいいですね」

Aeterlinkの気高い想いは、便利で豊かな世界へとワイヤレスで繋がっている。

-岩佐さんにとってInspired.Labとはどんな場所ですか?

「先輩起業家、経営者に話を聞ける環境というのはとてもありがたいです。また偶発的な出会いはすごく重要だと思っているので、なるべくここに顔を出して色々な方とお話ししたいですね。様々な価値観やバックグラウンドを持った人と、仕事でも仕事以外のところでも価値観を共有し合って自分を高めていけるような場にしていきたいと思っています」

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