浜松から世界へ。日本の製造力をサポートするものづくりを。

リンクウィズ株式会社(以下、リンクウィズ)は、産業用ロボットをより使いやすくするソフトウェアを開発する会社だ。3次元のデータを高速で処理する独自技術によって、従来のロボットでは対応できなかったロボットの独自判断(自動化)が可能になり、製造力の効率化が期待されている。Inspired.Labのメンバーであり、代表取締役である吹野豪さんに、リンクウィズを立ち上げた背景やこれからの展望についてインタビューした。

「リンクウィズの代表取締役社長として、産業用ロボットをより使いやすくするためのソフトウェアの開発を行っています。産業用ロボットはプログラムされた単純作業は得意ですが、人間のように自分で考えて動くことができません。そこで、ロボットアームに3Dスキャナを取り付けてリンクウィズのソフトウェアを接続することで、自分の目で見て考えて動作することが可能になります。製造業はニーズはあるけど作業がものすごく大変な分野ですが、学習する産業用ロボットによってその課題が解決できないかと考えています。」

浜松市で生まれ、父親の仕事の関係で一度東京に行った後、小中学校を静岡の山間部で過ごした吹野さん。 高校から浜松市に戻り、その頃から製造業で働きたいと漠然と考えていた。

「製造業を本気でやりたいと思ったきっかけは、カナダの大学に転入したことでした。僕が留学した20年近く前は、世界中に日本製品が溢れていたんです。海外でも日本の製品が浸透していることを強く実感して、現地の大学の同級生も、ホンダの車が欲しいとか、パナソニックのノートパソコンがかっこいいとか、日本製品をものすごく評価していて、誇らしい気持ちになったことを覚えています。しかし徐々に海外製品がシェアを広げ始め、 日本製品の露出が少なくなっていく様子を目の当たりにし、日本で製造業をやらなければいけないなと思いました。」

大学卒業後はカナダから日本に帰国し、新卒で製造業とは離れた東京の会社に就職した。しかし、ものづくりの世界で働くことを諦めきれず、故郷の浜松に戻りパルステック工業株式会社に転職。CDやDVD、BDなどの光学ディスク検査装置を製造しているメーカーで新規事業開発を担当した後、外資玩具メーカーに転職し、アメリカ、ドイツ、イギリスなど、現地で玩具作りのデジタル化開発を担当した。

「ものづくりの開発もマーケティングもとても楽しい仕事でしたが、『製造業としてのものづくり』への挑戦をしたいと思い、ご縁のあった株式会社アメリオで取締役に就任することになりました。その後、32歳の時に浜松でリンクウィズを創業しました。浜松に戻ったのは、ホンダやスズキ、ヤマハなど、日本を代表するグローバルなものづくり企業が集まっていたからです。製造業の会社が世界的な規模まで会社を大きくするためのアンテナを持っている人が近くにたくさんいる地域でスタートアップをやるというのは意味があることだと思いました。それに、海外に住んで感じた日本製品の浸透の根源が、この地域にリンクしているように感じました。」

アメリオでの取締役の経験がスタートアップ立ち上げに活かせたという吹野さんだが、リンクウィズ創業当初は委託開発をメインとした会社だったという。

「2015年の創業後、最初の2年間は委託開発がメインでしたが、『始動 Next Innovator』という国の起業家育成プログラムに選出され、シリコンバレーに派遣されたことをきっかけに、プロダクト開発をやろうと決意しました。創業当初3人だったチームも、今では50人ほどの社員がいます。 そして、大手町にも拠点を置いた大きな理由は、SAPとより近い距離で仕事をするためです。現場で様々なデータを取得できる自社のシステムと、ERPなどの業務ツールは相性がとても良いので、SAPが運営している Inspired.Labに入居することに決めました。」

リンクウィズのデータを使うことで、職人芸といわれていた製造の最適化が可能となり、製造現場がだんだんと良くなっていく様子を実感できている一方で、会議室で計画されたDXが現場に浸透していくことの難しさも感じている。

「DXは、現場と会議室の認識にギャップが生まれてしまうため、目線合わせがとても大変です。経営層だけではただのコンサル会社になってしまい、実行ができませんし、現場は現場で作業が忙しくてDXを考えている暇がありません。しかし、DXは双方の力があってこそ成り立つもの。それぞれのアプローチの仕方や伝え方を変えながら、経営層のグランドプランと実務のデジタル化を同時に実行していくことが大事だと感じています。」

吹野さんが描く未来はどのような世界なのだろうか。

「製造現場で使われるものづくりのスタートアップで上場している企業はまだ日本にはありません。まずはそれを自社で実現したいと思っています。浜松という中堅地方都市からでも何かが変わる可能性があることを証明したいですね。また、浜松にはグローバルなものづくり企業がたくさんあると言いつつも、起業率よりも廃業率が高いのが現状です。僕たちの会社だけではなく、自治体全体で同志を生み出すことが大事だと思っていて、小中学校の起業家教育ボランティアとしても活動しています。大学生や社会人は、『いかに儲けるか』から事業アイディ アを考えてしまうことが多いのですが、本来起業において大切なことは、人が困っていることを純粋に探し見つける能力です。その上で、自分が何ができるのか、そもそも人のためになるとはどういうことなのか等、どれだけ人のことを考えられるかというところから事業が生まれます。それに、『こういうのをやったら面白いよね』ということから友達を遊びに誘うことは、スタートアップが仲間を集めるときにやらなければといけないことと同じです。小中学生という柔軟な時期に、起業の種を伝えられることはとても意義のあることだと思っています。」

最後に、吹野さんにとってInspired.Labとは

「製造業においては、不良品を減らすということが今や当たり前になってきているので、それをベースに人のリソースをどのように効率的に使えば製造力を残せるかというサステナブルな領域での戦い方が、自分たちの提案内容です。その分野でいち早く動いているのはInspired.Labにいる大企業の人たちで、僕はそこにすごく刺激をもらっています。それに、お客様でもなく仕入れ先でもない人たちと会話ができる場所って案外ないものなので、この場で起きる偶発的な出会いがとても面白いと感じています。」


CONTACT

ご見学、ご入居などの
お問い合わせはこちらから

お問い合わせフォーム