「死ぬまで元気でいられる世界」の実現をめざして

株式会社ミナケアは、病気の回避・健康維持に資金を投資する「投資型医療」を推進し、健康経営支援やヘルスケア事業支援サービスを提供している会社だ。代表取締役社長を務める山本雄士さんに、ミナケアを立ち上げた背景や今後の展望についてインタビューを行なった。

「『病気を治す医療』から『病気にさせない医療』へと、医療の役割を広げていく仕事をしています。具体的には、皆さんが加入している健康保険組合(保険者)が我々のお客さん兼パートナーとなり、一緒に医療システムをアップデートしていくことがミナケアの仕事です。保険者はそれぞれ、企業や自治体、そして加入者から保険料を集めますが、そのお金のほとんどは病気の治療費に費やされています。皆さんも加入者同士で治療費を支え合っているんです。一方で、病気の中には健康的な生活習慣や継続的な病気の管理などで避けられるものがあります。ところが、今はまだ『病気にならない』『病気にさせない』という働きかけよりも、『病気になったら治療する』という発想の医療になっています。保険者に集まった保険料を上手に使うために、健康に投資する、つまり病気にさせないための医療も必要であると考え、健康経営支援やヘルスケア事業支援サービスを提供することで、投資型医療の実現を目指しています」

学生時代から医者を目指し、大学卒業後は6年ほど循環器内科で医師として従事してきた山本さん。歯科医師の父親の存在をきっかけに医学の道を志したが、学生時代は医者になることを強く望んでいたわけではなかったという。

「高校生の頃は、目の前の受験勉強に集中していて自分のキャリアパスなんて考えなかったです。漠然と『医学部に入れるだけの成績を取る』ことを目標にして、無事に合格しました。ですから、どうして医学部に入ったの?と問われても、『医者になりたい』こと以外に明確には答えられませんでした。それでも、座学や解剖実習を経ていざ病院実習が始まると、患者さん側からすれば白衣を着ている学生も医者同然。すると呑気ではいられず、だんだんと医師になる意義や重みへの自覚が芽生えてきました。卒業後は感染症科や救急などを経て、循環器内科という心臓系の内科で6年ほど医師として従事しました」

医者としてキャリアを積む中でやる必要のない雑務に追われ本来医師が対応すべき業務に邁進する環境が整っていないなど、当時の病院経営の仕組みに対して違和感を抱いた山本さんは、そのような現状を根本から変えるためにビジネススクールに通うことを決意。しかしその道のりは、決して平坦なものではなかった。

「せっかくの医学のポテンシャルが、現場でサービスとして十分使われていないことに違和感ともどかしさを感じていました。そのような話を上司にしたところ、ビジネススクールを勧められて、直感で通うことを即決しました。それが医師5年目の2003年の12月、そこから研修医の指導をしつつ受験勉強を始めました。入るなら医療従事者が聞いても分かる大学、つまり名の知れたトップスクールでなければ理解してもらえないと思い、ハーバード大学のビジネススクールを目指しました。しかし、それまで留学経験などもなかったので英語ができない、そもそもビジネスなんて日本語でも分からない分野。『大変そうな日本人医師』としてキャラ立ちして生き抜きました(笑)。授業も分からないし、自分が言ってることも通じないというスタートでしたが、なんとか無事に2年間で卒業することができました」

帰国後、健康保険組合向けのベンチャー事業会社と、文部科学省の外郭機関の仕事を掛け持ちし、日本の医療現場の現状を改めて見つめ直した山本さん。そこでミナケアを立ち上げることになったのだが、実は起業には消極的だったという。

「ビジネススクールに通って視野が広がったことで、医療とビジネスの両方のモノの見方ができるようになり、ミナケアのような事業が成立するのではと考えるようになりました。しかし、周囲に構想を話しても賛同はしても動いてくれるわけではなく、なぜやらないのかと疑問にすら思っていました。もちろん、自分で起業するのは怖い。そのような思いを抱えながらも、一念発起し2011年に起業しました。起業の原動力になったのは、『このままは嫌だ』と感じたからです。この仕事を誰もやらないまま死ぬのは嫌でした。消極的に思えますが、それがアクションを起こす力になりました」

山本さんの強い思いが原動力となって立ち上がったミナケアは、起業から10年以上が経過した。約40人の社員と共に目標に立ち向かっている現在、どんなことに困難や面白さを感じているのだろうか。

「難しいのは人の巻き込み方、そこに尽きます。私たちのやっている『病気にさせない医療』は、今困っている人が見えにくいために社会課題として残り続けてしまう。理屈では課題だと理解できても、それを生活の優先的な課題にしたり、人生をかけて解決に取り組めるかというと簡単ではありません。それでも巻き込むには、当事者意識や応援者意識、参加者意識を持ってもらうために、我々ミナケアがまさに今、何をしようとしているのか、何を目指しているのかをわかりやすく表現しようとしています。医療をアップデートしていく面白さは、変わるきっかけが色々な場面、出会い、タイミングで生まれてくることです。小さなイベントでもそうですし、厚労省や政治家と新しいルールを考えたり既存のルールを変えていくこともそうです。こうしたことを積み上げていく1つ1つに面白さを感じています。創業以来これまでに、制度自体が変わったこともそうですし、JALさんやローソンさんなどの企業パートナー、浜松市さんやいわき市さんのような自治体パートナーも増えてきていて、起業当初に比べるとずいぶん進んできたという実感があります」

ミナケア代表の山本さんとして、そして山本雄士さんとして、「投資型医療」が実現した未来にどんな景色を見ているのだろうか。

「『昔って、倒れるまで誰も守ってくれないから、毎日ビクビクして生きてたらしいよ。考えられなくない?』と言われるような、そういった世界へとアップデートしていきたいです。そのために、ミナケアで新しいビジネスモデルを築いていったり、個人の教育活動である山本雄士ゼミで新しい医療人材の育成に力をいれたりしていきます。こうした活動で医療業界を次のステージに入れたいという思いがあります。自分が目指すのは『病気を治す』ことの前に『死ぬまで元気でいられる』世界の実現です。それが100年後なのか、50年後なのか、ミナケアの力であと5年後になるのか。こればっかりは自分1人の力でどうにもならないですが、それこそが社会起業家として社会課題と向き合うということだと思っています」

山本さんにとってInspired.Labとは?

「引っ越してきたのがコロナの中だったことや、私たちが事業拡大や組織成熟に集中していることで、まだまだLabを味わいつくせていません。でも、毎朝出勤してきたときに『おはようございます』と言える相手がいることは素敵なことです。今後はイベントなどに積極的に参加しながら健康経営を普及させてヘルスケアシティ作りに貢献できるといいなと思っています。とにかく、これからが楽しみです」

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