配線なきデジタル改革を掲げる
配線なきデジタル改革を掲げるスタートアップ企業Aeterlink。代表取締役兼CTOを務める田邉勇二さんに、これまでとこれからについてインタビューをした。
前回(2020年に)インタビューをした共同創業者岩佐さんが語っていた通り、長距離ワイヤレス給電は、電力を15m-20m離れた場所にワイヤレスで伝送する技術をいう。この技術の要を担っているのがAeterlink代表取締役兼CTOの田邉さんだ。もともと田邉さんは、スタンフォード大学で体外から体内に向けてワイヤレス給電をする技術の研究をしていた。例えば、従来型ペースメーカーは8~10年に一度バッテリー交換のために開胸手術が必要であったが、体外から体内に向けてワイヤレス充電をすることによって患者さんの負担にもならず半永久的に使用できるようにするというものだ。メディカルニーズだけでない利用方法を探し始めたのが2016年。そして2017年に岩佐さんとの偶然の出会いから生活が一変する。
「当初、岩佐さんは商社マンとして新しいビジネスの種を探していましたが突然会社を辞めて、ワイヤレス給電一本で起業すると言い出した時は正直驚きました。ただ、その情熱に打たれ同じ船に乗りました。互いにリモートでどのようなアプリケーションがワイヤレス給電技術に向いているのかを2018年、2019年はひたすらやっていましたね。」具体的な技術利用方法を日々模索している中、テレビ放映された受信機の試作に興味を持ってくれた企業が現れ、その辺りから事業スピードがググッと加速する。
アメリカでワイヤレス給電の研究を始めるきっかけとは
「大学は、あの安倍晋三元首相と同じ学校からスタートしました。センター入試2週間前から勉強を始めたもので、、、。とりあえず大学に入って就職をしようと思っていましたが、いざ就職となったら大手は全く受からず、そうこうしているうちに北九州に学術研究都市が出来る話を聞いて、北九州に行こう!と早稲田大学大学院情報生産システム研究科に入りました。そこでアンテナ関連の工学博士を取りました。日本の大学の場合って、結構大学の先生から研究テーマが与えられたり、先輩から引き継ぐ研究が多いのですが、私の場合はどちらかというと何か誰もやってなかったようなことをわざわざ選んで、敢えていばらの道を行くというやり方をやって来ました。」
先生の土俵には乗らず、シリコン、光レーザー、そして集積回路の分野に進み、アンテナからの電波の遅れの理由に注目しGPSの精度の研究に行き着く。そして、自動車の中でハーネスが重いという問題を解決すべく、ケーブルをなくすというプロジェクトをトヨタ自動車と共同研究を始めワイヤレスの研究に入っていく。
「やはりエンジニアとしては、日本で工学博士を持っていてもなかなか日の目をみるチャンスが少ないと思いました。だから野球選手がメジャーリーグを目指すみたいに、私はシリコンバレーを夢見ました。」ノープランでアメリカに渡り、半年後にスタンフォード大学の先生に出会う。丁度先生はハードウェアのエンジニアを探しており、これまでの経験も踏まえ何か一緒に出来そうだと意気投合した。そしてやはりアメリカの環境はスピードが違ったという。
「大学が、それは結構すごい技術なので知財特許をとりましょう、次は商用化していきましょうと進めていくんですね。あれよあれよという間に物事が進んで、その先生と共同でニューロサイエンスを用いた会社を作りました。アメリカの大学では、エンジニアリングの先生はほとんどが何らかの形でスタートアップに関与していて、逆に言うと企業活動をしていないということはエンジニアリングの責務を果たしていないので教授失格と言われるほどなのです。ただ、我々はビジネス経験がないチームだったが故に、外から連れてきたビジネス側の人とでややこしい関係性が生まれ、半年で離脱し研究に戻ることにしました。」
再度研究室に戻って始めたのは、光で神経を刺激する研究。神経を選択的に刺激するので電気刺激よりも解像度が高くなることに注目した。その特徴を生かし、脳腫瘍の点在する脳腫瘍の治療では、腫瘍箇所に光を当てることで治療の効果を上げたり、肥満を光で治療したりと新しい可能性に出会っていった。そして、岩佐さんとの偶然の出会いという冒頭の2017年に戻り、2020年に会社として銀行口座を開設する必要が出てきたことでAeterlinkという会社を創業するに至る。当時は田邉さん、岩佐さんに加え小西さんとボランティアで参画してくれていた小館さんと安岡さんの5名。この5名で技術開発と顧客開拓の両方を手当たり次第に進めていった。全速力で走りながら、今年2022年に量産化に舵を切る。
「量産の知見がない中でどうやって進めるのか、もう困難だらけです。ちょうど今日クオリティマネージャーが入社してくるんですよ。」今チームを大きくする局面に立ち、どうやったらそれぞれが自分の力を存分に発揮しながら働くことができるかを模索しているという。入社を決める本人だけでなく、その家族に心配をかけないようにと家族面接までしているそうだ。来年には100名規模の会社を目指している。
さて、企業が成長する中で田邉さんはどういう思いを抱いているのか。
「世界がこれからどうなるかと考えたときに、人口が増えたり、昨今の紛争だったりで必ず出てくるのがエネルギー問題です。電力供給のワイヤレス化が進めば、ワイヤの製作・設置に紐づくCO2を削減することができる。つまり環境問題に貢献できるわけです。私はここに可能性を感じています。もっとも自分自身計画性のある人間でもないし、将来役に立つと思っていないことが実は役に立つということは往々にしてあると思っています。なので興味を持って取り組んでみることと常に興味関心のアンテナを立てておくということが重要だと思っています。」
「またこれからのAeterlinkという組織の話をすると、3つの軸をやっていこうとしています。1つはInspired.Labで実証実験をさせていただいているビルでの利用、2つ目がファクトリーオートメーション。これは、ロボットはセンサーが多いのでそれをワイヤレス化することで断線率を減らすことができ、どのデータが故障しているかが迅速に分かるという取り組みです。そして3つ目がアメリカでもやっていたようなメディカル領域です。今は神経情報をいかに取り込んでいくかというのをテーマにしています。技術者・研究者は堅物に思われがちですが、私は目標を達成するために柔軟な姿勢でそれぞれの分野を粛々と進めていきたいですね。」来年100名のメンバーを目指すAeterlinkの躍進が止まらない。6月2日には、急成長する同社の実証実験の様子がテレビ東京系列モーニングサテライトにて放映される。
-田邉さんにとってInspired.Labとはどんな場所ですか?
「同じように大きな目標を持った様々な企業が集まって、それぞれ日々戦っている状況下に一緒にいることが貴重ですね。その中で、ラウンジは憩いの場だったり、元気をもらえる場となっています」