最新のバイオテクノロジーで難治性疾患を克服する

近年アカデミア、製薬会社及び投資家の関心を大きく集めている『エクソソーム創薬』。EXORPHIAは、難病に対する新たな治療手段(ニューモダリティー)としての『エクソソーム医薬品』の開発にInspired.Lab内に設置されているウェットラボで取り組む創薬バイオベンチャーだ。金子いずみさんはEXORPHIAの共同創業者で創薬研究部長を務めている。

「エクソソームは、細胞から分泌される直径50-150nm(ナノメートル:10億分の1メートル)の顆粒状の物質で、細胞間のコミュニケーションを媒介しています。治療薬として血管から投与する際に、毛細血管に詰まる塞栓のリスクや増殖のリスクもなく、細胞移植より安全性が高いと考えられています。また、冷蔵保管が可能で取り扱いも容易であるため、細胞療法のマルチな作用を備えつつ幅広い医療現場への普及に適した画期的な医薬品として実用化できる可能性を秘めています。弊社は独自の研究により高活性・高濃度のエクソソームを製造する方法を開発し、様々な評価系を用いて複数の難治性炎症性疾患に対する薬効を確認しました。私は創薬研究部の部長という立場で全ての研究統括をしており、今後COVID‑19も含む肺障害などをターゲットに、さらに開発を進めていきます」

新鋭の創薬バイオベンチャーで日々邁進している金子さんだが、もともとは研究者を志していたわけではなかった。

「小さい頃から書道をやっていて、高校1年生まではずっと書道家になりたいと思っていました。転機は高校2年生の時に突然卵巣膿腫という病気になったことです。幸い良性の腫瘍で命に関わることはなかったのですが、お医者さんに原因を聞いても現代の医学ではわからないと言われて、普通に生活をしていたはずの自分の体の中で何が起こったのだろうと、人間の体の中のわかっていない多くのことにすごく関心を持つようになりました。そこから書道家の夢を封印し、当時は文系だったのですが、自分で数学や化学を勉強した後、理転して研究者を志しました。理系科目はもともとは苦手だったので担任の先生には反対されましたが、昔から気になったことはとにかく突き詰めないと気が済まない、やりたいと思ったことはやめられない性格だったので、両親は止めても無駄だと諦めていましたね(笑)。大学で分子生物学を学び、最終的に大学院で医学博士を取得しました。当初は病気がどのようにして起こるのかということに興味があったのですが、仕事と考えた時に、病気を治したい、自分の能力を人に還元したいと考えるようになり大学院卒業後は製薬会社に入って薬理研究(薬剤の有効性評価)をしました。その後、家庭の事情で外資系大手製薬メーカーのメディカルアフェアーズ部門に転職しましたが、やはり研究の世界が恋しくなって研究職に戻りました。しかし、前職で自分の力を発揮できず悩んでいた時に、もともと知り合いだった現EXORPHIA社長である口石さんから、実はやりたいことがあるのだとエクソソーム創薬の話を伺いました。最初はシーズ(薬の種)もなく、アイデアだけの状態でゼロからやるのは自分にはできないとお断りして、他の人にやって貰うための研究計画を立てるつもりで該当分野の論文などを読みながら色々と調べていたのですが、そのうちに自分でやりたくなってきてしまって(笑)。それから半年間2人で準備をして2019年にEXORPHIAを創業しました」

好奇心の赴くままにゼロからの出発を選んだ金子さん。『薬理研究』に専念していた製薬会社時代とは異なり、現在は『製造』や『品質管理』など全てに取り組む必要があると語る。

「ベンチャーでなかなか専門人材が集められない中、技術基盤のエクソソームの『製造』という今まで専門外だったことにも手探りでトライしなければなりません。研究資材を提供してくれるメーカーさんなどプロフェッショナルな方々を巻き込みながら、外部の力にもうまく頼りながら今は何とかやっています。責任ある立場で会社の技術基盤を作っていくのはすごく大変で辛いことも多々ありますが、私にとってはやりたいことを我慢する方がもっと辛い。周りから見たら異常だと思われることもある私のこだわりやしつこさは、この仕事に関してはプラスに働きます。自分がやりたいことを自分が考えているアプローチで突き詰めていけるところに大きなやりがいを感じていますし、40歳を過ぎて今までやってこなかったことを新たに勉強したり経験したりできているので得をしてるような感覚もあるんです。やはり新しいことを知るというのは研究者としての喜びですから」

自身の病気をターニングポイントとして研究者の道を歩き始めてから、気がつけば長い月日が経った。自らの気持ちと正直に向き合いながらたどり着いた現在地から、金子さんは今何を思うのだろうか。

「EXORPHIAはエクソソームとオーファンドラッグ(希少疾患用医薬品)を合わせた社名です。薬としては高額な、細胞から抽出するエクソソームをあえて使っているわけですから、今まで解決できなかったような難しい疾患を狙いたいという想いがあります。有効な治療法のない早発卵巣機能不全(早発閉経)もその一つで、出産時の母親の体内にできる臍帯の間葉系幹細胞が分泌するエクソソームを使えばこの疾患を治せるかもしれないという可能性が近年出てきたので、早速4月から動物実験などを開始しようと思っています。私が研究者を志すきっかけになったのは卵巣の疾患だったわけですが、研究にも流行りのようなものがあり、大学生だった頃はまだ不妊治療などがホットではなかったのでこれまで1度も卵巣の研究はしてこなかったんです。それが、まさかこのタイミングで今取り組んでいるツールが自分が研究者の道に入るきっかけになった疾患を解決する手段になるとは全く考えてなかったので、不思議な縁と使命を感じています。最終的にここに戻ってくるんだと。これまでの全てをかけて挑戦しようと思っていますし、今は早くやりたくてワクワクが止まらないです」

-金子さんにとってInspired.Labとはどんな場所ですか?

「先日のInspired.Lab内で行われた書き初めイベントでは子供の時の夢だった書道家デビューのようなことができました。研究の仕事だけをしていたらそんなことはありえなかったので、COさんから声をかけてもらって自分の夢が1つ叶えられたのはとても嬉しかったです。研究者は狭いコミュニティにいることが多いのですが、ここにくるとバックグラウンドが違う人たちと新鮮な話ができ何か新しいものが生み出される感覚があります。様々な意味でInspired.Labは私の可能性を広げてくれる場所です」

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