
安心と挑戦が交差する組織カルチャーを育てる ー 人事から考えるチームの土台づくり
中嶋 圭吾(なかじま・けいご)
「すべての人が時空を超えて働ける世界へ」をミッションに掲げる東京大学発スタートアップ、株式会社ジザイエにてCXCO(Chief Culture & Communications Officer)として人事・労務マネージャーを務める。採用から評価制度の運用、人事対応、社内イベントの企画・運営など、人と組織をつなぐ仕組みづくりを担当。加えて、情シス領域の整備など、組織運営の実務と基盤づくりを横断的に推進している。リクルートの新規事業開発室では、過疎地域の高齢者の移動課題を解決するプロダクトの企画・運営に従事。その後、地域コミュニティや共助・互助の仕組みに関心を持ち、地域SNSを開発するスタートアップでコンテンツディレクターを経て現職。大田区・羽田イノベーションシティ内にあるコワーキングスペース「PiO PARK」初代アンバサダー。
『すべての人が時空を超えて働ける世界へ』。株式会社ジザイエ(以下、ジザイエ)は、独自の遠隔操作技術を用いて、人が現地にいなくても“その場で働ける”ことの実現を目指している。建築現場や交通誘導、工場など「その場にいなければ働けない」という常識があった仕事の制約をテクノロジーで解き放つ。東京大学での研究開発を基盤に生まれたリアルタイム遠隔就労支援プラットフォーム『JIZAIPAD』は、建機や監視システム、製造ラインなどをリアルタイムかつ高精度に遠隔操作できる技術を提供。独自の低遅延通信とUX設計により、まるで現場にいるかのような操作体験の実現を目指している。さらに、遠隔臨場用クラウドカメラ『JizaiEyes』は、現場の様子を鮮明な映像でリアルタイムに可視化する。独自の映像圧縮伝送技術によって、不安定な通信環境下でも高画質・低遅延を維持し、遠隔監視や遠隔点検、作業支援など多様な現場業務を支えている。そんな最先端技術を支える「人と組織」の裏側を担うのが、人事労務・組織運営を担当する中嶋圭吾さんだ。
「今は主に人事採用を担当しています。採用媒体の運営やスカウト、カジュアル面談・面接など候補者の方と直接お話しすることも多いですね。人事領域では、目標設定や評価制度の運用、派遣スタッフの契約対応、社内イベントの運営なども担当しています。最近は情シス的なことも一部関わっていて。専門家というわけではないですが、仕組みを整える前の整理や、必要なものを見つけて形にしていくのは抵抗なくできるし、むしろそういうのが好きなんですよね。ジザイエの創業は2022年11月。気づけば関わるようになってもう4、5年になります。」
長野県佐久市出身。新卒で自動車ディーラーのアフターセールス職に就き、約7年間勤務した。その後、上京して自動車整備士の派遣会社で営業職を経験し、リクルートへ転職。地域モビリティ支援プロジェクトに参画し、地方の公共交通空白地帯の高齢者の移動支援の仕組みづくりに取り組んだ。実際に過疎地の集落を訪れ、住民一人ひとりの声を聞きながら地域ぐるみの交通支援を構築。「テクノロジーが人を助ける瞬間を見た」と語るように、この経験が中嶋さんにとって“人とテクノロジーの共存”を考えるきっかけになったという。
「自動車ディーラーで仕事をしていた時は、モノを売るというより、人の想いを形にする仕事が好きでした。クルマを通して人生の節目に立ち会うことも多く、家族の成長や新しい生活の始まりなど、人の物語に寄り添う仕事にやりがいがありました。7年ほど勤めて、ずっと長野にいるのもいいけれど、もっと外の世界も見てみたいと思い、25〜26歳のときに上京。自動車整備士の派遣会社で営業職に就いた後、リクルートに入社して地域モビリティ支援プロジェクトに参画しました。運転できる地域住民と送迎を希望する高齢者をマッチングし、タブレットからの簡単な申し込みで送迎できたり、運転手の都合が合わない場合に高齢者同士でタクシーの乗合を申し込めたりと、高齢者の移動を地域で支える仕組みづくりです。実際におじいちゃんおばあちゃんの話を聞いたり、社会福祉協議会やボランティア団体の方々と協力しながら、地域ぐるみの交通支援を考えていました。そういう現場で、“テクノロジーが人を助ける瞬間”を見ることができましたが、ただ、事業として続けるのは難しくて、悔しさが今も残っています。」
その後、リクルート内の新規事業開発コンテストの運営に携わったのち、地域コミュニティの面白さに惹かれて、ご近所限定の掲示板サービスを運営するスタートアップに入社。コンテンツディレクターとしてコミュニティ運営に関わり、多い時には月500人ほどのライターとやり取りし、月に1万本近い記事をリリースすることもあったという。
「段々と、量を出すことに意味があるのかと考えるようになり、“やりたかったのはもっと生のコミュニケーションかもしれない”と思い始めた2021年頃に、ジザイエとの出会いがありました。入社の決め手になったのは、“テクノロジーで人を置き換えるのではなく、人を拡張する”という考え方。そして『会社もコミュニティだよね』という代表の言葉でした。テクノロジーだけでなく、“人のつながり”を大切にしているところに強く共感しました。採用も人事もコミュニティ運営の延長線上にあると思い、初めての分野でしたが挑戦させてもらうことに。同時期には、ジザイエのFounder 兼 Chairmanである東京大学の稲見昌彦先生のプロジェクトに関わらせていただいて、スケジュール調整や取材のアレンジなども担当していました。」
現在、中嶋さんが担当している仕事のひとつに、社内イベントの企画・運営がある。毎週月曜10時からは“Weekly チェックイン”という時間を設け、“Good & New”というユニークなグループワークを実施。一週間の中で良かったことや新しく発見したことを共有しながら、コーヒーを片手にオンライン・オフラインを交えて語り合う。そして金曜の午後にある“BigUp!Friday!”。週の始まりと終わりに全員が顔を合わせ、互いの1週間をたたえ合う時間が習慣になっているという。
「“BigUp! Friday!”は部署や個人単位で『今週どんなことをやったか』『どんな成果があったか』を発表してもらっています。“BigUp”って、ヒップホップやレゲエのスラングで“よくやった!”“ナイス!”みたいな称賛の意味があるといいます。例えば、『誰々さんがこれをやってくれました、ビッグアップ!』って一週間を振り返って小さな進捗でも称え合える文化にしたくて始めました。創業初期から続けている取り組みで、いまではジザイエの恒例行事になっています。代表の中川のトークコーナー、“最近読んだ本紹介”や代表に直接質問できる“Ping Pong Talk” といった企画もあって、ゆるく楽しい雰囲気です。だいたい1時間くらいで終えて、その後は仕事に戻る人もいれば、週末なので早めに退勤して出かける人もいます。」
その他にも「Values Award」という社内イベントがある。ジザイエには、行動規範・価値規範として「We are Positrons, Owners, Artisans, Vanguards」という4つのバリューがあり、これはInspired.Labに入居してから、メンバー全員で「自分たちが仕事で大切にしていることは何か」を話し合う中で生まれた言葉。バリューを体現している人やその行動を全員に知ってもらうきっかけとして始めたものだ。ジザイエがこの一年、どんな取り組みをしてきたのかを振り返るイベントでもあり、入社したメンバーの紹介や出来事のまとめなども行う。こうした振り返りができるのは、毎週の「BigUp!Friday!」で日々の出来事を積み重ねているからだ。
「イベントの中では、1年を振り返る動画を流したり、Slack上で集計された“バリュースタンプ”のデータを紹介したりもします。このスタンプは4つのバリューそれぞれに対応していて、メンバー同士が日常的に押し合っています。2023年には合計837回のスタンプが押され、2024年はメンバーの増加もあって前年の倍近くに伸びました。アワードは一年の締めくくりにあたり注目しているメンバーも多いです。スタンプの数が最も多かったメンバーを発表するほか、ルーキー賞や、“縁の下の力持ち”を称える特別賞なども設けています。マネージャークラスはあえて対象外にし、現場で活躍するメンバーに光を当てるのが特徴です。イベント全体を“面白おかしく、みんなが笑顔で楽しめる時間”にできるよう、毎回少しずつ工夫を重ねています。そうした中で大変なことも多いですが、それ以上に楽しい瞬間が多く、ジザイエらしい“人のつながり”を感じられる場になっています。」
人が増え、組織としての厚みが出てきた一方で、採用・評価・労務といった“人を支える仕組みづくり”の重要性も年々増しているという。スタートアップの成長過程においては、制度やルールを整備しながらも、ジザイエらしさ──つまり“自由と責任”を両立させる文化を守ることが求められる。そのバランスをどう取るかは、常に試行錯誤の連続だ。
「人事の仕事は、日向に立つこともあれば影に回ることもある部門だと思っています。会社の成長フェーズや方針によって、評価や昇進のタイミングは変わることもありますが、どんな状況でもメンバーの努力を正しく見極められるよう、仕組みを丁寧に設計していきたいと考えています。この3年ほど人事・労務・採用に携わってきて感じるのは、『組織としてのバランスをどう取るか』という難しさです。スタートアップでは、熱量高く一体感を持って進む一方で、フラットなフィードバックがしづらくなる場面もあります。だからこそ、ジザイエらしくメンバーが力を発揮しやすい組織をどうデザインするか――その考え方を伝わりやすくしながら、丸さと尖りの両方を持った組織づくりを続けていきたいと思っています。」
「採用の仕事は、ジザイエの“入り口”に立っている感覚があります。仲間になってくれるかもしれない人に最初に会って、『この人とだったら面白いことができそうか』って考える。それを社内のメンバーに紹介して、『どう思います?』みたいなフィードバックをもらいながら、最終的に『この人と一緒に働けたらマジで面白そうだな』って思えるのが醍醐味です。面談では、できるだけ自然体で話すようにしています。自社のSNSでも笑っている写真を使うようにしてて、候補者の人から『ウェブで見た印象と変わらないですね』って言われることも多いです。最初から安心してもらえるようにしたくて。スタートアップで最先端の技術を扱う人たちがどういう振る舞いをしているのか、どうすれば魅力的に映るのか、そういうことを考えるのは好きなんですよね。ある意味“役者”みたいに、その時の自分を演じてるのかもしれません。」
人と向き合う仕事の中で感じるのは、“制度”や“評価”だけでは語れない、組織の温度のようなもの。誰かがチャレンジして失敗しても、もう一度挑戦できる空気があるか。新しく入ったメンバーが安心して自分を出せるか。そうした小さな安心の積み重ねが、結果としてジザイエというチームの強さを形づくっている。
「ジザイエに関わってくれた人たちが、どんどん良くなってほしいという思いがあります。マンションの一室で仕事をしていた頃を思うと、Inspired.Labに来たとき“まさか大手町駅直結のビルに入れるなんて”という驚きがありました。みんなでここまで来れたという喜びはありますが、そこに満足せず、どうすればもっと良くできるのか、“良い”とは何なのかを、ビジョンやミッションを実現するために、みんなで考えながら進んでいきたいと思っています。一緒に働くメンバーだけでなく、クライアントやパートナー企業など、関わるすべての人を含めて“どうすればみんなが良くなっていくか”を考えることが、ジザイエらしさだと思っています。代表の中川が“社員にどうあってほしいか”という話をしていたときに、『みんなに踊っていてほしい』と言ったんです。僕もまさにそうで、ジザイエというステージで、それぞれが楽しく踊れる場所をつくっていきたい。みんなが機嫌よく過ごせるようにしたいし、自分自身もそれを実践していきたい。健やかで、いつでも踊り出せるような状態でいたいんです。」
最後に、中嶋さんにとってInspired.Labとは?
「僕がいま、自分らしくいられるのは、Inspired.Labのおかげだと思っています。Labのランニング部で皇居ランに挑戦して、最初は全然できなかったけれど、それでも他のLabメンバーが『いいね』って認めてくれて、さらに走れるようになったら褒めてくれる。そういうサイクルがある場所なんです。誰かがちゃんと気にかけてくれていて、『あ、見てくれてるんだな』って思える。その感覚が、仕事でも自分の在り方でも、すごく支えになっています。」


