知財の保護から活用へ──テクノロジーで広がる新たな可能性

村居直行(むらい・なおゆき)
2014年に大学卒業後、国内金融機関にて、リテール営業、経営担当秘書、ウェルスマネジメント部門でのソリューション営業やデジタル分野における新規事業開発などの様々な業務に従事。証券アナリスト資格保有。その後ブロックチェーン関連スタートアップに勤務し、新規事業開発及び推進を担当、また事業会社との協働でのweb3.0プロジェクトを推進。2023年4月よりIPconnect株式会社に参画し、コンテンツに関する新規事業企画や事業戦略策定、営業からシステムまで全般的に推進。2024年7月より同社代表取締役に就任。


IPconnect株式会社(以下、IPconnect)は、日本発のコンテンツIPを守り、育て、世界へ広げることを使命とするIT企業だ。アニメや漫画といった日本のコンテンツ産業において、「テクノロジーでIPを守り、価値を繋ぎ、未来を創る。」ことをテーマに、知的財産の保護から活用までを一気通貫で支援する仕組みを構築している。IPconnectは、ブロックチェーン・AIの開発力と実績のある株式会社レシカと、知財・法律領域に強みを持つIP FORWARDグループの知見を掛け合わせて誕生した。これまで、ブロックチェーンを活用したIPの認証・登録・公示システムである「jpnft」やAIを活用した監修効率システム「IP Supervisory Support」に取り組み、コンテンツIPビジネス領域に新しいソリューションを提供するため挑戦する。村居さんは、コンテンツチーム・法務関連チーム・技術チームを統合し、IPconnectの事業全体をリードする立場として、グローバル展開を視野に入れた新たな知財エコシステムの構築を推進している。

「アニメやゲームのキャラクターが関連商品や広告に展開される際に必ず行われる“監修”は、これまでは人の目に頼り、数百・数千件にもおよぶ画像や動画をひとつずつチェックする膨大な工数がかかっていました。ライセンサーもライセンシーもよりクリエイティブな活動に使うべき時間や労力が、監修作業に奪われてしまうことも多かった。そこで開発しているのが『IP Supervisory Support』です。」

画像認識や生成AIを活用することで、キャラクターの形状や色味、構図の整合性などを自動で分析する。間違った表現や、本来の世界観を壊しかねない表現をAIが先回りして検知する。さらに、チェックの過程で得られたデータを蓄積することで、作品の進行に合わせて変化する監査基準のリアルタイム更新と透明化を可能にしている。

「僕は法律家でもエンジニアでもないので常に仲間と協力して作り上げていますが、法律、技術、そしてビジネスをつなぎ、広げる「扇の要(かなめ)」のような存在でありたいと思っています。ただ、最近はAIの発達に伴って、自分でUIを作成したり、プロトタイプを作ったりと、生成AIに助けられている部分があります。僕自身もこういった新技術を活用し、効率化することでよりスピード感を持ってビジネスを進めています。」

幼少期から漫画などのIPコンテンツに親しんでいた村居さん。前職時代からブロックチェーンやAIに興味を持ち、自ら暗号資産を購入したり、AI関連会社の株式を購入して最新の情報をウォッチするなど、探究心を持ち続けてきた。キャリアの始まりは金融機関での愛媛・松山勤務。個人のお客様を対象とした飛び込み営業からスタートし、経営陣の秘書、富裕層向けソリューションコンサルティング、デジタル関連における新規事業開発まで、多彩な経験を経てきた。金融機関からレシカに出向したのち、IPconnectの代表として事業を牽引している。

「松山では毎日インターホンを押す個人営業から始まりました。断られることも多かったですが、時には家に上げてもらってお茶をいただいたり、人との関わりを学ぶ時間でもありました。二年目に突然、秘書として東京に異動になり、経営陣の近くで働いたことで「会社とは何か」ということを勉強させてもらいました。この3年間が大きな転機でしたね。今でもこの3年間で学んだことが基盤になっていると思います。」

「その後、名古屋に転勤になり立ち上げ間もない富裕層向けコンサルティングサービスに関わりました。有名絵画を飾ったり、著名人や海外からゲストを招いたり、またコンサルティング活動を通して、色んな経営者の方とお話をしたりと“富裕層ならではの世界”を体感しました。そんな中、お客様から『イーサリアムを扱えないのか』といった新しいサービスを希望する声を多々直接聞くように。そこから、元々興味のあったデジタル関連の新規事業開発部門に移動させてもらい、出向という形でレシカに入社しました。前職ではスタートアップへ出向するケースは珍しく、最初は戸惑いもありましたが、自由度の高い環境で新しい挑戦ができるのは刺激的でした。これらの経験が全て、IPconnectにつながっています。」

将来的には、“ファンの目線”や“地域ごとの感覚”といった多様な評価軸をAIに学習させることで、キャラクターIPの価値を守りながら、単なる監修効率化ツールから「よりよい形で作品がグローバルに羽ばたける」ように支援するシステムにすることを目指している。一方で、IPconnectは、社会問題となっている生成AIによる著作権侵害にも着目し、新たな事業を推進している。すでにキヤノンマーケティングジャパンによる「spark.meアクセラレーションプログラム」にも1次採択され、業界内外から注目を集めている。IPconnectの原点は、数年前に社会問題化した「海賊版NFT」にある。当時、人気キャラクターの画像を無断でブロックチェーンに登録し、NFTとして売買する事例が相次ぎ、著作権者の権利を大きく脅かしていた。

「例えば、有名アニメ作品のキャラクター画像をコピーしてブロックチェーンに載せるだけで、もうNFTになってしまう。当時はそういった「海賊版NFT]が市場に出回っていて、ただでさえ、今でも海賊版との戦いなのに、web3.0でも同じような戦いになる。これはどうするんだと大きな問題になったんです。経済産業省の補助もいただきながら立ち上げられたプラットフォーム『jpnft』は、その課題を解決する仕組み。権利情報を認証しブロックチェーンに正しく登録・公示することで、権利の可視化と保護を行うシステムです。ここからIPconnectの流れが始まったんです。」

現在、IPconnectが取り組んでいるのが「IP Supervisory Support」。これはキャラクターグッズなどを作る際に行われる監修作業をAIで支援する仕組みで、これまでがデザイン案を細かく確認していた、人の目に頼るような作業を、AIが瞬時に判定できるようにすることで監修の負担を大きく減らす。将来的には単なる間違い探しから「世界観」を理解し、より良いデザインをアドバイスする段階まで進めたいという。

「例えば、バトル漫画の主人公の背景が全部ハートマークだったら違和感がありますよね。そうした“らしさ”をAIに学習させ、明確に間違いというルールはないが世界観を守れるようにする。それが次に目指しているフェーズです。監修を超えてマーケティングや商品開発にまでつながる基盤を作るのが目標ですね。さらにその監修プロセスで蓄積されるデータを活かせば、マーケティング支援にも拡げられる。例えばある国では左右対称のデザインが好まれる、ある国では、といったファンにとっても“より良いデザインの傾向”まで見えてくる。監修の先にある不可価値を、IPconnectで提供していきたいです。」

最後に、村居さんにとってInspired.Labとは?

「ここは大手とスタートアップが一緒にアイデアを磨ける貴重な場所だと思います。僕自身、AI活用の議論など、他チームの取り組みから刺激を受けることが多い。新しい事業を生み出すための“実験場”として、すごく意味のある存在ですね。」

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