Web3が紡ぐ人と地域と新たな旅路
株式会社レシカ(以下レシカ)は、ブロックチェーン技術を活用したコンサルティングや自社プロダクトの開発・運営を行うWeb3企業。その特徴は、時間や空間、モノなどの現実世界のアナログ資産価値をデジタル世界で再定義する点にある。ウイスキー樽のNFT販売を行うUniCaskや、不動産をNFTとDAOで管理・共有するANGO等のプラットフォームは、個人の資産を安全に管理しつつ、グローバルに共有することを可能にする。2024年8月に法人登記された新プロジェクト「JAPANGO」のプロジェクトマネージャーを務める本多拳士さんにインタビューを行った。※ANGOについてお話しいただいた大歳桃加さんのインタビューはこちら
「弊社の現在の主要なプロダクトは、UniCask、ANGO、IP connect、そして僕がメインで関わっているJAPANGOの3つ。JAPANGOでは、代表のクリスが中長期的なビジョンを担う一方で、僕はプロジェクトマネージャーとして短期的なマイルストーンの設定と実行を担当し、マーケティング、プロダクト開発、セールスと様々な領域を横断しながら仕事をしています。」
本多さんがブロックチェーンに興味を持ち始めたのは2016年末頃。当時海外の大学に通っていた友人からビットコインの話を聞いたことがきっかけだった。世間では、2017年秋にビットコインが100万円を超えたことで、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)の概念が一般に広まり、本多さんは2020年にレシカにインターン生として参画。当時レシカで行っていたコンサルティング業務のアシスタントや、当時新しく立ち上げていたプロジェクト、その他UniCask担当として、NFTアーティストとコラボしたコラボ樽の販売・管理を担当した。
「学生時代にはアルバイトやインターンで新卒と同じくらいの給料をもらっていたので、就職を考える時もこのままでいいかなと思っていました。レシカのインターン中に代表のクリスと話す機会があり、彼に『君のビッグピクチャーは何か?』と尋ねられたんです。その時何と答えたかは覚えていないのですが、クリスから『それはビッグピクチャーと呼ばない。 “Why” じゃなく “How” の次元だね。』と言われました。そんな彼の描くビッグピクチャーはとても大きくて、一緒に働くのは面白そうだと感じて、すぐに社員として働くことを決めました。前のインターン先やアルバイト先も含め、僕は上司に恵まれているタイプだと思うんです。それは僕の強みかもしれないですね。」
2024年4月に府令改正が行われ、これまで法的に曖昧な存在だったDAOが合同会社として登記できるようになった。NFTを購入すれば合同会社の社員になることができ、NFTの購入者に法人の利益を法定通貨として配当できるようになったのだ。これにより、ANGOはDAOを通じた地域経済の活性化や地方創生のビジネスモデルがより実現可能となり、JAPANGOが立ち上がるきっかけにもなった。
「ANGOとJAPANGOはどちらもDAOやNFTを活用したビジネスモデルですが、ANGOが民泊業界の稼働率向上や地域に焦点を当てたプロジェクトであるのに対し、JAPANGOは、旅行業界全般を対象に、旅行者、サービス事業者、地域住民が一体となったコミュニティ形成と観光体験の向上を目指すプロジェクトです。今回の府令改正によって、JAPANGOでは、地域内での経済活動を活性化し、地方創生に大きく貢献する新たな旅行体験のモデルが構築されつつあります。従来、大都市の資本や外資によってマージンが取られていた部分を、DAOを通じて地域住民や関係人口が共有し、利益を地元に還元することができるようになるでしょう。単なる物件の稼働率の向上にとどまらず、地域コミュニティ全体を巻き込む形で、地方経済の再活性化に貢献できるようになったということは僕らが目指しているANGOの姿。そしてJAPANGOは、この新しい法制度を最大限に活用して、旅行者、サービス事業者、地域住民の三者をつなぐ新しい旅行体験のモデルとなっています。」
「JAPANGOは、オーバーツーリズムへの対策にも力を入れており、地域経済への負担を軽減しつつ、旅行者に質の高い体験を提供することを目指しています。具体的には、三者が一つの合同会社の社員として、NFTを所有してDAOに参加していただくことで、全員の利益を共有できる仕組みになっています。例えば、地域住民が地元のサービスを使いにくくなるという課題に対し、地域住民がマナー検定を作ったり、トークンを受け取ってバスやタクシーをお得に使える仕組みを作ることで、住民も利益を得られるようになるとか、旅行者に対しては、合同会社型のDAOとしてみんなで出資し、観光体験サービスを一括で調達することで、個人では価格が高い体験もディスカウントされた値段で提供できるような仕組みを作ろうとしています。これによって、旅行者は安く良い体験ができ、事業者も旅行者の過去の観光履歴やマナーの習熟度を見ながら、直接集客することが可能になります。例えば、AirbnbをはじめとするOTAには既に一定のフィルタリング機能は備わっているものの、より具体的に旅行者の素性やマナーがわかる仕組みがあれば、単にマナーの悪い客を排除するだけでなく、良い顧客にさらに良いサービスを提供できる可能性がある。旅行者、サービス事業者、地域住民の三者の利害を一致させ、良い循環を生む仕組みをJAPANGOで実現していきたいと思っています。」
UniCask、ANGO、JAPANGOを通じて、リアルワールドアセットのトークン化に取り組んできたレシカ。お酒やアート、不動産など、現実世界にある資産をデジタル化し、トークンとして扱う中で、本多さんは、現実の資産とデジタル技術を結びつける新しいビジネスモデルを構築する難しさと、その過程におけるやりがいを感じている。
「僕らは、RWA(Real World Asset)といって現実世界にある資産をトークン化したトークンを扱うビジネスを行っているため、現実的な課題がいくつも出てきます。例えば、ANGOで民泊をやるためには物件が必要ですが、民泊可能な物件の地域が決まっていたり、建物に関してもさまざまな条件があったりします。UniCaskも然りで、もともと樽の取引というのは、蒸留所が樽単位で顔見知りの卸に販売するという伝統的なやり方でしたが、個人が樽を持つには樽が大きすぎるという問題があります。こうした課題や社会的な制約と、法的な枠組みと、そして何よりもユーザーのニーズに向き合う中で、『これなら実現できる』というピースがハマる領域が見えてくるのですが、それを具現化することが難しくもあり、楽しい部分でもあります。」
「下がらなければ、前進である」。時に斜めや横に進むことがあっても、それは最終的に前に進む糧になっていると話す本多さんからは、柔軟な発想や前向きな心、そして常にポジティブに挑戦し続ける姿勢が伝わってくる。そんな本多さんが描くJAPANGOの未来とは?
「JAPANGOはスローガンに『Pass to Japan』を掲げています。ブロックチェーンはあくまでもインフラでしかないので、ブロックチェーンの技術が日常生活に溶け込み、特別に意識されることのない未来が理想だと思っています。信号機の重要な役割は、『青なら進む、赤なら止まる』のサインを提供すること。信号機の内部構造や点滅の仕組みが利用者にとって重要な意味を持たないのと同様に、ブロックチェーンにおいても大切なのは、技術を使って何を実現するかです。どのような遊び心や新たな体験を生み出していくか、挑戦は続きます。」
最後に、本多さんにとってInspired.Labとは?
「本当に居心地がいい場所ですね。僕らがいるエリアの天井は配管が剥き出しになっているのですが、僕はそのデザインがすごく好きなんです。行き詰まった時にパッと上を見ると、自分や誰かの思考がうねうねと繋がっているのかもしれないなと思ったり、古い配管に残された文字などが見えたりするとそれがまた落ち着きを感じさせてくれます。1週間も働けば誰でも、落ち着く、仕事のしやすい空間だと実感すると思います。新しく入居する方がいたら、ここはそんな場所ですよと伝えたいです。」