構想と技術のあいだで——装置ビジネスが挑む、新たな可能性


「技術と対話で未来をつくる」。株式会社KOKUSAI ELECTRIC(以下KOKUSAI ELECTRIC)は、特に半導体ウェーハ成膜の分野でトップクラスのシェアを誇る装置メーカーだ。1949年の創業以来、長年培ってきた技術力を基盤に、現在は東京証券取引所プライム市場に上場する企業として、グローバルな成長を続けている。近年では、カーボンニュートラルの実現やSDGsの達成に向け、環境負荷の低減にも積極的に取り組んでおり、装置そのものの省エネルギー化に加え、開発・生産・物流の各プロセスにおいても持続可能性を追求し、「技術」と「環境配慮」の両立をめざしている。今回は、事業開発部で新規事業開発を担当する薮谷恒さんに話を伺った。

「弊社は、半導体製造の前工程の処理を行う装置を開発・製造・販売している企業です。ここでいう半導体は円盤状のシリコンウェーハを思い浮かべていただくと分かりやすいかと思います。ウェーハの上に配線や絶縁体を何層にも重ねていく必要があるのですが、私たちはその“積層”を可能にするための成膜プロセス装置やトリートメントプロセス装置をご提供しています。現在の売上構成は、約7割が装置ビジネス、残り3割がメンテナンスや改良などのサービスビジネスからなります。」

事業開発部が立ち上がったのは、今から2年前。背景のひとつにあるのは、「シリコンサイクル」と呼ばれる半導体業界特有の需要変動に対する収益の安定化だ。半導体市場は、電子機器の景況や技術トレンドの影響を大きく受けやすく、業績に大きな変動を及ぼすことがあるため、安定的な成長のための新しい収益の柱が必要だった。もともとは新規事業探索の機能はマーケティング戦略部の中にあったが、当時は既存業務の合間に進めるような立ち位置で、なかなか本腰を入れられる環境ではなかった。その後、現在の事業開発部として正式にスピンアウトする形で組織化し、2022年4月に、Inspired.Labへの入居が決まった。

「私は事業開発部に所属しており、主に事業探索を担当しています。具体的には、展示会などでの市場調査を通じて、弊社と相乗効果を生む可能性が高い企業様とのコラボレーションを検討し、どのような形で実現できるかを探りながら両社で承認を得ていく、といった動きになります。新規事業にはノウハウが必要なため、2年経った今でも難しさを感じています。すでに多くの新規事業に取り組んでいる企業には、それらを支える体制や人材、評価制度が整っていますが、それらがあるのとないのとでは、大きく異なります。今は、既存事業の評価指標をなぞるのではなく、新規事業に適したものへと柔軟に変えていく作業をしています。それが簡単ではない分、やりがいにもつながっています。」

薮谷さんは、ご家族が経済学や人文科学の視点から地球環境の改善に取り組んでいた姿に影響を受け、当初は経済学を志していたという。しかし、「世の中を変えるには想いの強さだけでなく、確かな技術的な裏付けも必要だ」と感じ、エンジニアリングの道へ進んだ。

「私は関心がうつろいやすいので、広く浅くでも知識を持っておいて、興味が湧いたときにすぐ動けるようにしたいと思い、学生時代は核融合発電の可能性を探る基礎研究に取り組んでいました。電子情報工学科からエネルギー科学研究科に進み、光電変換回路や光線追跡シミュレーションなど、多くの技術領域を横断しながら学びました。研究テーマは、ある光学現象を正しく測定できるかどうかを事前にシミュレーションで予測するというものでした。光やレンズの性質、物理の法則、回路設計… 必要となる知識が非常に幅広くて、まさに技術の“総合格闘技”といった感じでした。当時、光を測定するための測定器を開発していましたが、のちに前職で扱った分析装置の業務にもかなりつながっていたと感じています。」

「昔から興味がある分野は、光や化学、物理、電気といった領域で、電気通信や無線、地域通信、メカ制御、ロボットに対しても関心を持って取り組んでいました。最近の関心は“エッジ”です。今のPCは、処理しきれない情報をサーバーやデータセンターに送り、そこで計算された結果を受け取るという構造ですが、通信が高速化し、PCの性能も上がれば、応答を待たずにローカルで完結できる未来がやってくると思っています。ユーザーに近い側で行う制御、いわゆるエッジコンピューティングにおいて、どんな仕組みや技術があるべきなのか、それが今の自分にとって強く関心のあるテーマです。」

卒業後は電機メーカーに入社。血液や免疫を対象とした分析装置の開発部門で、電気制御を担当した。その後、より提案型の仕事を志して製品設計部門に異動。KOKUSAI ELECTRICへの転職のきっかけは「未知の領域への挑戦」が原動力だった。

「前職において製品を考えること自体は面白かったです。これまで1,000円かかっていたものを500円に、さらに性能を2倍にできたら、トータルで4倍の価値を生むかもしれない。そんな世界観にやりがいも確かにありました。ですが、あらかじめ仕様が決まっていて、自由にできる範囲は限られていたので、これまで得た設計の経験を活かして新しい事業を開発する業務に参加したいと考え、KOKUSAI ELECTRICに入社しました。」

新規事業というと、アイデアやマーケット分析に注目が集まりがちだが、薮谷さんがKOKUSAI ELECTRICに採用された理由のひとつは「技術を理解していることの重要性」に会社側が着目していたからだ。新規事業の立ち上げにおいては、構想を描くだけではなく、それをどうやって実現していくかを考える力が欠かせない。

「正解がないというのは、難しい反面とても面白い部分でもあります。日本は失敗すると当人も周囲も再チャレンジが難しい雰囲気があり、欧米や他のアジア諸国のように革新的な企業が次々と生まれる土壌はまだ十分とは言えません。それでも、異なる技術や視点を組み合わせて試行錯誤を繰り返せば、必ずどこかから芽が出ると信じています。セミナーや教科書など、理論的なフレームワークはたくさんありますが、『これが正解』という道はありません。だからこそ、自分なりのやり方を模索する余地がありますし、弊社のように失敗を全否定せず試行錯誤を支援いただける環境があるからこそ、挑戦し続けられるのだと思います。」

2023年に発表され、2024年に更新された中長期的な事業戦略および中期目標では、売上収益を3,300億円以上へ伸長させる方針を掲げている。現在いくつかのテーマを絞り込み、社内の承認を得る段階にあるが、薮谷さんもその一端を担う覚悟で動いている。

「この目標に少しでも貢献したいという気持ちは強くあります。構想だけでなく、しっかりとした道筋と説得力が求められますから、中長期目標には新規事業の収益はほとんど織り込まれていませんが、だからこそ“想定されていないところから何かを生み出す”というのが、自分の役割だと思っています。そんな経験はこれまでになかったので、正直悩むことも多いですが、だからこそチャレンジングで、非常に刺激的な仕事だと思っています。」

最後に、藪谷さんにとってInspired.Labとは?

「『自己開発の場所』や『自分を拓く場所』です。前職では与えられたテーマに対して決まった基板や電気ユニット、装置を作る仕事で、社外でも決まった方々とのやりとりにとどまっていました。考えも固定化されたところがあったと思い返します。でも今は、外に向けて発信する必要があります。自分たちにはない技術を取り入れて、どうやってビジネスにつなげていくか。その姿勢こそがオープンイノベーションの原点だと思っています。」

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